キリンが「一番搾り」を刷新、看板商品リニューアルで執念の首位奪還なるか

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アサヒも新商品投入 2強激突にさめた目も

次の課題は、味のイメージをどう伝えるかだ。一番搾り麦汁だけを使った“澄んだ味”とイメージで訴求してきた一番搾り。「麦芽100%」を打ち出すことで“コク”や“重たい”というイメージが加われば、コンセプトが乱れてしまう。最も苦労したのがCMやキャッチコピーなどのクリエーティブだった。「これまでは食事とビールをセットで訴求する連動型でやってきたが、今回はあえてビール単体で、味の特長を前面に打ち出すものにした」(田代さん)。一番搾りそのものの実力に懸けることにしたのだ。

08年11月、商品が完成すると、年明け後は営業が本格化した。広域販売推進統括本部の波多野潤氏は、取引先への年始回りと同時に、一番搾りのリニューアルを猛アピールして回った。「ただのリニューアルではないという本気度を伝えたかった」(波多野氏)。「白木屋」など全国1400店超の居酒屋を展開するモンテローザの商品購売課の鎌田覚氏は、「生ビールは居酒屋メニューの中でも付加価値商品。居酒屋にとって今回のブラッシュアップはうれしい限り」と好意的に受け止める。

一方、迎え撃つアサヒもこの5月、一番搾りと同価格帯の100%麦芽ビール「ザ・マスター」を新発売、真っ正面から勝負に臨む。スーパードライでは取りきれない“コク”を求める消費者をターゲットとした製品だ。つまり一番搾りと真っ向からぶつかる。スーパードライでビール市場のシェア5割を握るアサヒだが、高級ビール以外では03年以降新製品を出していない。ザ・マスターは3年半の開発期間をかけた自信作だ。

池田史郎・アサヒビールマーケティング本部副本部長は、「一番搾りのリニューアルを意識して発売時期を選んだわけではない」と話す。が、両製品が熾烈な闘いを繰り広げるであろうことは容易に想像できる。

「市場が縮小傾向にあり、リニューアルや新製品といっても既存品を越えるほどのヒットは出ない。しかもビール類は利益率が低いので、メーカーの戦略に踊らされると小売りは痛い目に遭う」とは某首都圏スーパーのバイヤー。従来のようなリベートのうまみもなくなった今、両社のつばぜり合いに対し、小売り側からは冷ややかな視線もチラつく。

100%麦芽ビールをめぐる2強の激突。両社のプライドを懸けた首位争奪戦という枠を超え、低迷するビール市場そのもののテコ入れ役となりうるかどうか。ある意味シビアに、その実力が問われている。


「あとは徹底して結果が出るまでやる」−−松沢幸一 キリンビール次期社長(内定)

原料が変わったので味は多少違う。(食品リニューアルの失敗例として)キリンラガーがよく挙げられる。まったく不安じゃないというわけではないけど、いろいろ研究して結論に至っている。大きな決断をしたのだから、あとは徹底して結果が出るまでやる。発売前から「ひょっとしたら具合悪いんじゃないか」なんて言えませんからね。

私の役目は、「とにかく自信を持って行け」と背中を押すだけ。ただ、メーカーがおいしくなったと言っても、お客さんがどんな反応をしてくれるかはわからない。そこは冷静に見ていきたい。食品に限らず、改革・改良というのを絶えずやって、期待されるものを作り続けるのがメーカーの役目。お客様の一番搾りへの期待を、きちんと形にして応えていく。それが大切だと考えています。

ここ数年、アサヒさんに僅差で負けているから、「今年はそろそろどうですか? 」なんて聞かれる。結果的にシェアが逆転してくれれば最高にうれしい。社運を懸けるくらいの気持ちでやっているけど、会社はゴールのない駅伝。無理なく長続きする事業にすることのほうが大事です。

(佐藤未来 撮影:今井康一 =週刊東洋経済)

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