社員もパートも幸せな「持たざる経営」の秘密 世界トップを走る中小企業には総務部がない
メトロールの製品は完全受注生産。完成品の在庫はいっさい持たず、注文が入ってから1個単位で作るため「3週間先の仕事も決まっていない」と松橋社長は笑う。標準的なセンサー1台は約20点の細かな部品からできているが、工場には7000点以上の部品が取り揃えられており、それらを組み合わせることで、現在約1000種類にも及ぶセンサーが作られている。
世界品質を支えるパート女性たち
その製造工程を担うのが、パートタイムで働く女性たちだ。ひとつの製品を作るのに、簡単なものなら1~2時間、時間のかかるものだと半日くらい。それぞれが必要な部品を自分で取りに行き、図面にしたがって組み立て、テスト、袋詰めまで行う。「自分で作った製品は子どものようにかわいらしく思えます」と、入社10年目の松沢由賀さんは言う。
相当な熟練を要するようだが、メトロールでは未経験でも入社翌日から製品を作れるような仕組みが整えられている。たとえば、重要な工程や難易度の高い作業は、誰がやっても高いクオリティが保てるよう、自社で開発した補助器具を使う。また、日頃から彼女たちが積極的に改善を提案できるような仕組みもある。それが「気づきシート」だ。
「ねじの凹凸に接着剤がついているとナットがうまく入らないので、これまでは手でコロコロ転がしながら取り除いていたんです。でもその作業には結構時間を取られるし、手も痛くなる。鉛筆削り器のような要領でその作業を補助する器具ができないかなと思ったんです」
この提案は昨年、松沢さんが出したもの。気づきシートに記入して提出するやいなやすぐに採用され、その器具も開発された。今では製造工程の中で普通に使用されている。
「気づきシート」には何を提案してもいい。作業上の改善案のほか、「トイレに小窓をつけてほしい」「自転車置き場に庇をつけてほしい」といった要望まで寄せられる。提出された「気づき」は、翌朝には担当者が決済し、9割以上はすぐに採用される。パート社員から提出される気づきは年間約300件。提出した枚数が多ければ年1回表彰される機会もある。こうして、彼女たちは日々意欲的に仕事に取り組み、腕を磨いているのだ。
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