金正恩側近が死去、南北関係はどうなるのか 対南関係責任者の死が与える影響とは?

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さらにDMZ(非武装地帯)付近で2015年8月に発生した地雷爆発事件を「北朝鮮の仕業」と断定した韓国政府が対北政治宣伝放送を再開、北朝鮮はこれに反発して「準戦時体制への移行」を宣言するなど緊張が高まったときにも、金部長は重要な役割を果たした。

この問題を処理するための会談に金部長は黄炳瑞氏とともに出席。北朝鮮が地雷事件に遺憾を表明することを条件に、韓国側の放送を中止することなどで合意している。金部長と黄炳瑞氏の二人が南北交渉の窓口として最高位であることは明白で、2014年9月の訪韓に続いて大きな関心を集めた。

責任者不在で南北関係悪化の可能性も

そんな金部長が亡き後の南北関係はどうなるか。北朝鮮問題の専門家で、韓国・国民大学の鄭昌鉉(チョン・チャンヒョン)教授は、彼の死亡によって南北関係に影響が出てくるのではないか、と指摘する。

南北関係がどんなに悪くても、交渉などの接触をはじめ関係を維持していくためには、金部長のような対南書記の力が重要な役割を果たす。北朝鮮国内で軍部や他部署から、南北関係の改善に対する牽制があったとしても、南北関係の重要性を重視し、統一戦線部の立場をしっかりと守るためには、対南書記の力がどれくらい強いかに掛かっている。その力が弱まる可能性があるというのだ。

特に2016年には、韓国では4月に総選挙、北朝鮮では5月に36年ぶりの朝鮮労働党党大会が開催されるなど、南北関係を不安定化させるイベントがある。「2015年8月のような、いわゆる南北の2+2形式のような会談を開き、南北関係の突破口とすべき時期を迎えるが、2+2の一方の軸が死亡してしまうと対話を行いづらくなる」(鄭教授)。リスクを回避、あるいは緩和させる装置が弱体化してしまう、という説明だ。

また鄭教授は、「過去の例からすれば、空いた対南書記を新たに任命しない可能性も高い」と指摘する。そのため、今後の南北関係においては、新たな枠組みや立場を表明して新局面を切り開こうとするよりは、安定的な維持管理に留まるような姿勢を北朝鮮が見せてくることもある、ということだ。こうなると、特に軍部の意向に影響を受けやすくなり、南北関係に緊張を強いられる状況になりやすくなるかもしれない。

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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