ANAが仕掛けた国際運賃の慣例崩し

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かつて国際線はJALの独占分野で参入を許されていなかった。規制緩和によってANAがグアム線に参入したのが1986年。当初は先を行くJALに追いつき追い越せで無我夢中だった。だが、99年に国際連合のスターアライアンスに参画し、国際的な知名度を手に入れた。そして、04年にはようやく黒字化にこぎ着けた。「これまではJALの背中をずっと追いかけてきたが、今回は初めて自分たちが仕掛けた点で象徴的だ。(価格の据え置きは)昨年7月ごろから検討していたが、経営体力のある今がチャンスと考えた」とANA関係者は明かす。

 現在、同社の国際線の要は中国線。国際線全体のうち旅客数で約4割を占める。ただ、最近は中国の航空会社の参入やJALの便数強化などで需給バランスが崩れ始め、搭乗率は伸び悩みぎみ。「1~3月は年間で最も閑散期なだけに、個人旅行客やビジネス関係者は運賃に敏感に反応する」(ANA関係者)と見て、慣例崩しに踏み切った。

 さらにANAの石井智二マーケティング企画部主席部員は「燃油費は航空運賃の原価で最も重要。運賃以外で取ることは好ましいことではない」と、燃油サーチャージの将来的な廃止をも示唆する。経営再建中のJALに対して収益力の差は明らか。歩調を同じくするよりも、本体運賃に一本化し、価格競争に持ち込んだほうが得策との見立てだろう。

 これは旅行業界の思惑とも一致する。現在、業界では燃油サーチャージの徴収代行をするが、航空会社から手数料をもらえない。しかも、高額な「別途運賃」に顧客の苦情も絶えず、現場から不満が噴出。日本旅行業協会では改善要望書を1月下旬にも国交省へ提出し、本体運賃への一本化を求める方向だ。

 すでに国内線では燃油サーチャージが廃止されている。欧米諸国では国際線の燃油サーチャージが一部でカルテル違反の調査対象となるなど、周辺の瓦解は静かに始まっている。ANAは今春、まずJALとは異なる独自の燃油サーチャージの運賃表を国交省に再提出する構えだ。

 また、同社は燃油サーチャージも含めた国際航空運賃の認可制度への反発もあらわにしている。昨年9月、公正取引委員会の規制研究会へ提出した意見書で、一部規制について初めて「早急に見直しが必要である」と言明。国際航空運賃の自由化による競争力強化をもくろんでいる。公取委の神宮司史彦・経済取引局調整課長は「ANAは今までになく発言が前向きだ。積極的な姿勢が見て取れる」と驚きを隠さない。

 ANAが軸足を置く羽田空港の国際化議論も高まりつつある。長らくJALの後塵を拝してきた国際線で、念願だった主導権を握れるかどうか。燃油サーチャージの据え置きはその試金石になりそうだ。

(書き手:冨岡 耕)

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