未完のファシズム 片山杜秀著
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旅順要塞での惨劇の反省のうえに青島攻略では軍を近代化して成功した。しかし最強の国家相手の総力戦で「持たざる国」が勝利するのは至難である。ではどうするか。皇道派と統制派の対立も戦略的に見ればその点に尽きた。前者の典型は小畑敏四郎(としろう)の短期決戦思想であり、身の丈以上の戦争に巻き込まれぬための戦略が密教と顕教で存在したことが明らかにされる。後者でいえば石原莞爾(かんじ)の世界最終戦論だが、田中知学(とがく)の国柱会(こくちゅうかい)に依拠しての超長期的な国力涵養の戦略すなわち統制経済であった。
だがここで終わらせずに陸軍少将・中柴末純(すえずみ)を登場させることで、本書は戦争哲学について膨らみが生まれた。中柴の思想は『戦陣訓』を生み、「天皇陛下万歳」で「死もまた生」となった日本軍は「玉砕」へ突き進むほかなかった。明治憲法によってはファシズムは完成しなかったとの指摘とともに、斬新な視角が多く「持たざる国」の宿命的顛末は余韻十分だ。(純)
新潮選書 1575円
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