しかし、家族は別です。何よりも大切なのが家族です。ゲルを構えた10キロ範囲は自分と家族、そしてその周りは衝突を避けるために兄弟、親族で固めます。家族や親族など血のつながりを大切にするので、その親族が住んでいる地元意識が強いのですよ。会ったら「あなたの地元は?」と聞きます。
謝らない、恨まない、そのワケ
――地元意識、ですか。遊牧民族に地元があるのですか。
遊牧といっても大体の地域があり、それを聞けば近い関係かどうかがわかります。地元の人同士は親近感があるので、信用してもいいか判断するときにはふるさとの話をします。モンゴル人には家族は裏切らないけど、ビジネス関係では他人には容赦がない、弱肉強食的な感覚があります。
それでも、自分たちの間合いと言える住んでいる空間に、お客さんや見知らない誰かが入ってきた場合には、全力で助けます。広大な自然の中ではそれは生死の問題ですから。
しかし、助けても見返りを求めず、恩を売りません。遊牧民の生活では今日会った人は、もう明日は会わない人。今日行ったことは今日限りです。助けられたほうも感謝はやたらとせず、恩を返さなければとは思いません。やって当たり前なのに感謝をしたら逆に失礼で、怒られることもあります。
それに、謝ることも恨むことも、さほどしません。謝っても延々と謝りません。相手も間違いなどは大目に見ます。モンゴル出身の横綱が問題を起こしたと言われることがありますが、彼らにとってはおそらくそれほど大きな問題を起こしたとは思っていないのです。
――それをわかっていないと「あいつは失礼だ」と言われてしまいますね。
これは広大な土地に家族のみで住む遊牧民と、地域に根差して仲間意識が高く、社会性を持ってみんなで力を会わせて作業をする農耕民族との大きな違いです。「建前」も遊牧民族にはわかりません。今日会って、明日会わないモンゴルでは、取り繕う必要はありません。物事はまず率直に、正直に言うことです。
それとモンゴルには「言霊」文化があります。歴史をさかのぼるとモンゴルはシャーマニズムです。「天」と「地」を大切にし、その間に神々がいます。悪いことを言葉にすると、それを神様が聞いて実現しないようにすると考えられています。
思っていても口に出しません。たとえばビジネスで「うまくいかないだろう」と言ってしまうと、それば本当にうまくいかなくなると考えられる。建前で適当なことを言うのもよくないけれど、ネガティブなことばかり言うのもダメです。その意味ではモンゴルの国民は、とても前向きで楽天的な国民ですね。
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