中国の南沙支配は、もはや身動きが取れない ASEANサミットでは"中国批判"が多数派に

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中国の影響力はどの東南アジア諸国にとっても大きな問題だが、このように多数の国が中国の行動について明確に立場を表明したことにより、これまで発言を控えていた国も発言しやすくなるだろう。

また、フィリピンの発言の背景には、国際仲裁裁判所がフィリピンの提訴に応じて仲裁を開始するという判断があった。これも中国の行動を批判する側にとって追い風となっている。

安倍首相の発言は秀逸だった

安倍首相は、会議後の記者会見で「海の平和と安全を守り、航行の自由を確保するため、各国が国際法に基づいて責任を持って行動し、緊張関係を生み出す行動を厳に慎むことで、強いコンセンサスが得られた。共通のルールの上に関係国が対話を重ねることによって、相互の信頼を培っていくことができると考える」と説明した。会議では当然この趣旨を述べたのだろう。これは中国を牽制する秀逸な発言といえる。

今後、日本は米国、オーストラリア、ニュージーランドなどと協力して、国際法の尊重とルールに基づいた紛争の解決に関するコンセンサスが東南アジア諸国でも形成されるよう努めていくべきだ。

また、韓国に対する働きかけも必要だ。可能であれば、日韓中の首脳会談でもそのことを話し合うべきである。

朴槿恵大統領は、さる10月中旬訪米した際、オバマ大統領から「中国に国際法違反の行為があれば声を上げてほしい」と要請されたのに対し、明確に返答しなかった。今回のASEAN会議でも朴大統領の発言は注目されなかった。韓国は中国の行動に批判的な表明をしなかった国の一つだったのではないか。

最後に、ASEAN首脳会議の重要性の高まりについて指摘しておきたい。ASEAN首脳会議は域外国との意見交換を行うようになって以来、東アジアで最も重要な政治協議の場になりつつある。域外国は当初客分に過ぎなかったが、今や、南シナ海問題のような困難な国際問題についてASEAN諸国も域外国も真剣に発言する場となっている。会議の内外で様々な外交活動が可能になっている点も大きな特徴だ。

今回、安倍首相が会議場内でミャンマーのテイン・セイン大統領に、同国での選挙後の新しい政権樹立が円滑に運ぶことを期待していると話したのも、その一例。これはきわめて重要なメッセージである。短時間の会話であっても、直接会うことによって重要な事項を伝達することは可能であり、これこそが外交なのである。

美根 慶樹 平和外交研究所代表

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みね よしき / Yoshiki Mine

1943年生まれ。東京大学卒業。外務省入省。ハーバード大学修士号(地域研究)。防衛庁国際担当参事官、在ユーゴスラビア(現在はセルビアとモンテネグロに分かれている)特命全権大使、地球環境問題担当大使、在軍縮代表部特命全権大使、アフガニスタン支援調整担当大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表を経て、東京大学教養学部非常勤講師、早稲田大学アジア研究機構客員教授、キヤノングローバル戦略研究所特別研究員などを歴任。

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