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「5年間で3度、クマと対峙した」→足に裂傷も負った70代ネパール人が語る《クマ被害の実態》… ネパールと日本の"意外な関連性"とは

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その結果、村には高齢者のみの世帯が多く残る。ドルジェと妻ツェワンもそうだ。娘のうち2人は外国に、もう1人は首都カトマンズに住み、一人息子は別の村でトレッキングロッジを経営している。

以前は、トウモロコシが実る頃にはクマよけのため、畑へ派遣された若者たちが一晩中たき火をして鍋をたたくのが習慣だった。だが若年層がいなくなり、村から離れた畑が放棄されるなか、クマはより住宅に近い場所で食べ物をあさるようになっている。

人口動態と相関関係に

ヌブリのような村落の住民が移住するのは、教育・雇用機会の欠如が大きな原因だ。さらに、若年層流出が生み出す問題に拍車をかけているのが、医療や衛生状態の向上による寿命の延びと出生率の低下がもたらす村の高齢化だ。ヌブリの合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子の数)は2000年代前半には6以上だったが、今では3未満にとどまっている。

高齢化が絡む「クマ現象」が起きているのはネパールだけではない。アジア各地で、同様の力学が作用している。

ニューヨーク・タイムズ紙が昨年11月に報じたように、人口動態を一因とするクマ被害の増加は、日本でも発生している。日本では以前、農地などの里山が緩衝地帯として機能し、都市圏へのクマの侵入を防いでいた。だが過疎化によって、人口がより密集した地域にクマが接近するようになり、自然保護の取り組みと安全への懸念がぶつかり合う事態になっている。

そうした懸念は、ドルジェも身をもって知っている。23年の調査時には、肩から腕にかけて残る深い爪痕を見せ、もう夜間にクマを追い払うことはしないと語った。

昨年10月、ドルジェとツェワンはクマがうろつく前に収穫を行い、自宅の中庭にトウモロコシを保管した。中庭は石の壁で囲まれ、壁の上には薪を積み上げてある。万全の対策ではないが、クマよけにはなるはずだ。トウモロコシはビニールシートで覆い、念のためにドルジェがベランダで寝ることにした。

「シャラ、シャラという音で目が覚めた。クマがシートの下をあさっているに違いないと思った。私が行動を起こす前にクマが迫ってきて、大声を出したらおじけづいてうなり、寝ていたマットレスを引っかいた。それから突然足を引っ張られ痛みに襲われた」

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【「最初はクマを殺すべきだと思った。だが…」】

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