日本銀行の独立性確保は、通貨価値の安定の要

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リフレ派は、彼らが望ましいと考える2~4%程度のインフレ目標を日銀が明確に宣言し、それが達成されるまで金融緩和を続ければインフレ期待が生まれ、望ましいマイルドなインフレが実現すると主張する。

しかし、奇妙なことに、彼らは同時に「デフレやインフレは純粋に貨幣的な現象である」とも主張する。つまり、(GDPデフレーターによって示される)絶対的な物価水準は貨幣数量によって規定されるのであって、交易条件の変化、技術革新、消費者心理などの諸条件の変動には左右されない。それらによって動くのは個々の商品の価格である相対価格である、というのである。

インフレ(デフレ)率が貨幣数量と密接な関係にあることは当然だ。しかしそれは、一次関数のように一義的に決まるわけではない。実際には、家計や企業などの「経済主体の心理」という隠れたパラメータがかかわっている。それは、リフレ派がインフレ目標実現の経路の中で「インフレ期待」という要素を挙げていることからも明らかだ。

だとするとどうなるか。インフレ目標を宣言しても、“マイルドな”インフレなどは起こらないだろう。そう簡単には、インフレ期待は発生しないからだ。だが、そのまま強力に金融緩和を続けていけば、ある時点で家計や企業の期待が急激に変化するときが来る。突然物価と資産価格の制御不能な上昇が始まる。物価のファインチューニング(微調整)など、そもそも不可能な話なのだ。

つまりインフレ目標論は、マイルドで制御可能な“望ましい”インフレを実現するためには無力だが、高率で制御不能なインフレを発生させる可能性は十分あるということだ。

日銀法改正には、明確に反対である。

(シニアライター:福永 宏 =週刊東洋経済2012年6月9日号)

記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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