たまり続ける日本のプルトニウムに募る懸念 原発再稼働で指摘される別の問題

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米国だけではない。中国の軍縮大使は10月に開かれた国連総会の第1委員会で、日本の余剰プルトニウムが核武装につながる可能性があると言及した。

また、対北朝鮮に向けて核武装を望む国民が過半数を占めると言われる韓国。

「日本が再処理をこのまま進めれば、米韓原子力協定で韓国も再処理の権利を主張するだろう」(米・天然資源防護協議会のジョンミン・カン氏)

核拡散ドミノを防ぐ打開策はあるのか。

鈴木氏やフォンヒッペル氏は、全量再処理した後の放射性廃棄物を地下深くに埋めるという政策をやめて、使用済み燃料をそのまま廃棄物として埋設する直接処分(ワンススルー)を採り入れるべきだと提案する。

「地下深くに、拡張される前の羽田空港ぐらいの広さの処分場を一つ作れば、国内で発生する使用済み核燃料をすべて片づけられる」(鈴木氏)

原発再稼働でさらに増加へ

その場合、使用済み燃料を二重構造の乾式キャスクに50~100年程度、中間貯蔵して熱が下がるのを待ってから埋めることになる。使用済み燃料プールよりも頑丈なキャスクに納めて保管したほうが災害や盗難に対する安全性が高まるうえ、「埋設前に冷ますことで燃料同士の距離を詰められ、貯蔵スペースの節約にもなる」(フォンヒッペル氏)という。

政府は昨年4月のエネルギー基本計画で、使用済み核燃料に関して直接処分の調査研究を進めると明言したものの、この調査研究はあくまでも「選択肢の幅を広げる意味」(資源エネルギー庁放射性廃棄物対策課)との位置づけで、核燃料サイクルの堅持の方針は変えていない。

経済産業省によると、東京電力福島第一原発の事故で国内の全原発が停止中だった昨年3月末時点で、約1万7千トンの使用済み燃料が国内の原発などに貯蔵されていた。その3分の2が再処理を待っている状態だ。

加えて、今年8月の九州電力川内原発1号機を皮切りに始まった再稼働の流れが強まれば、再処理を待つ使用済み核燃料がますます増えることになる。

核兵器問題を扱うアナリストの田窪雅文氏はこう強調する。

「核兵器に利用可能なプルトニウムがあり余っている状態で再処理工場を動かして、さらにプルトニウムを取り出そうなどというのはもってのほか。他の多数の国々がやっているように使用済み燃料を中間貯蔵した後、直接処分するという政策に変えるべきです」

(文:ジャーナリスト・桐島瞬)

※AERA 2015年11月23日号

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