出番直前、ライバルに突然頭をペチッと叩かれ頭が真っ白に…。「M-1」3回戦進出するも辞退の太宰府市長、実は1回戦で「出場を後悔」の舞台裏

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8月の定例会見で「町おこし」としてM-1出場を発表した。記者たちの反応はいまいちで、やや“すべり気味”に感じたという。

コンビの大変さもすぐに思い知った。

政治ネタを軸とした台本は高田課長がつくった。現役市長である楠田氏は、コンプライアンスに問題がないか、太宰府ネタをどう絡めるかという観点で意見を出す。

楠田氏にとって「人前で喋るのはお手の物」、のはずが漫才は別物だった。

「街頭演説は目の前の人たちの反応を見ながら話題やトーンを調整する、いわば即興の喋り。一方M-1は台本や型がガチガチにある。競技漫才と言われるゆえんがよく分かった」

市長と応援大使だった高田課長との関係も、コンビの先輩後輩に変わった。

「高田課長は厳しかった。こっちは素人だし気楽に考えていたから温度差があって『本気でやらないと』と怒られた。『そんなつもりはなかったのに』ってだんだんつらくなった」

練習場所は市長室。ネタは職員に見てもらった。笑ってくれたが、いつもと違う姿を見せるのは恥ずかしかった。

それでも自分が言い出して高田課長を誘った以上、本気でやるしかない。そうして迎えた9月6日の1回戦で、楠田氏の人間性やキャリアが試される最大の試練に見舞われた。

頭を叩かれテンション駄々下がり

福岡市で行われた1回戦に参加したコンビは、大多数がアマチュアだった。混沌とした雰囲気の中、流れ作業で審査が進んでいく。

楠田氏によると、間もなく自分たちの出番というとき、「後ろにいた39歳のパティシエを名乗るやつが揺さぶりをかけてきた」という。

「市長課長さんですよね、と名刺を渡すそぶりをしてきて、2000円札を出してきた。意図が分からなくて動揺した」

その後、相手は本物の名刺をくれた。職業はパティシエで、お店に来てくださいと言われ、和やかな雰囲気に。

そこで気を緩めたら、「至近距離から頭をペチッて叩かれた。その瞬間、頭真っ白になったんですよ。最近叩かれるなんてことなかったし」。

緊張の糸はプツンと途切れ、テンションは駄々下がり。そばにいた職員も呆然としている。しかしここまで来て、怒って帰るわけにはいかない。

この出番だけ一生懸命やって、1次を通過しても辞退しよう、本気でそう思った。

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