「タイパ」を連呼する若手に、泥臭いおじさんが圧勝できるAI時代ならではの理由
なぜ、泥臭い経験が重要なのか。それを裏付ける興味深い仮説があります。神経科学者のアントニオ・ダマシオが提唱した「ソマティック・マーカー仮説」です。
人は何かを決断するとき、単に脳だけで論理計算をしているわけではありません。
過去の経験に基づいて、「なんとなく嫌な予感がする(胃が縮む感覚)」とか、「これはいけそうだ(胸が躍る感覚)」といった「身体的反応(ソマティック・マーカー)」がシグナルとして送られ、それが直感的な判断を支えているという説です。
例えば、経験豊富な営業マンは、商談相手のちょっとした表情やオフィスの空気感から、「この案件は危ない」と直感的に察知します。これはオカルトではなく、過去に何百回と冷や汗をかき、胃を痛めた経験が、身体に「警報システム」として刻み込まれているからと説明できます。
他にも、投資判断をする際の「このままだと大外れするのではないか」という嫌な予感や、プログラムを公開する直前の「もしかしてバグがあるのではないか」というザワつく感覚。それらはどれも、過去の泥臭い経験から得た「痛み」が、重要なアラートを出してくれているのです。
AIには身体がありません。だから、「胸騒ぎ」も「腹落ち」もありません。どれだけAIが良さそうなものを作っても、最後にそれを判断するのは人間の経験なのです。
「タイパ」を連呼する若手が失っているもの
「無駄なことはしたくない」と言って、泥臭い現場や摩擦を避けてきた若手には、このソマティック・マーカーが育ちません。
身体的な痛みや喜びを伴う経験(=情動)が不足しているため、いざという時に「自分の感覚」で判断ができず、AIが出した答えに依存するしかなくなります。



















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