こんなミドルさんがいたら、みんながハッピーになれる
「いい先生になりたい」「もっと成長したい」……子どもたちへの思いが強ければ強いほど、空回りばかりしてしまう。がんばりたい気持ちはあるのに、なかなか前に進めない。誰かに相談したいけど、そもそも相談していいことなのかわからない。仕事の優先順位がつけられず、すべての仕事を同じ熱量でこなそうとして、疲弊してしまう。
そんな不器用な「若手さん」を見たら、「ひ弱すぎる若手教員」「ちょっとネガティブすぎない?」と感じる人もいるでしょう。「いやいや、そういう若手さんなら、うちの学校にもいるよ」という人もいるかもしれません。
自らネガティブになりたいと望む若手さんはいません。その裏には必ず原因があり、周りに迷惑をかけてしまうことへの不安と、若手さんなりの遠慮や気遣いがあります。どうにかしたいのにうまくいかなくて、若手さんは本当に困っている状態です。
私はこれまで12年間、公立学校の現場で働いてきました。私がその間に接してきた若手教員との日常や、現場で見聞きしたこと、お世話になった先輩方の姿をもとに、「こんなミドルさんがいたら、みんながハッピーになれるなぁ」と思いながら、ミドルさんの傍で一人前に成長していく若手さんの物語を描きました。その一部を漫画とともに紹介します。
1年目の若手さんへの寄り添い方
「子どもが言うことを聞かない」「子どもからナメられて反抗される」。若手さんにありがちな悩みですが、問題は悩みそのものではありません。若手さんを「ドツボにはまらせない」ことです。そもそも初任者は「指導力がない」のがデフォルトです。
先輩教員から「それくらい自分で注意できないと、これからやっていけないよ」なんて言われた日には、若手さんは「やっぱり私、教員に向いてないんだろうか」などと諦めモードになってしまいます。必要以上に追い詰めすぎないようにしたいものです。
そもそも、「子どもに反抗される」「反抗されたらどうするか」という発想自体が、古い世代の発想です。子どもの反抗的な態度を対立的に捉えるのではなく、「何かに困っている子どもだ」と捉え、伴走するための手立てを考えていくことが大切です。
まずは「実態を把握する」という意味でも、相談を受けたらすぐに教室へ足を運びたいものです。実態を把握できたら、該当する子どもを呼んで、「実は廊下を通りがかったときに君の声が聞こえたから、気になって様子を見ていたんだ。何か困っているのかな?」「どうしたいと思っているの?」などと話を聞いてみるのもよいでしょう。
大切なのは教員一人ひとりの個性を生かしつつ、若手さんの特性に合った対策、子どもとの関わり方を一緒に考えていけるようにすることではないでしょうか。
例えば、現場の先生方に「生活指導って何ですか?」と聞いたら、おそらくその答えは人によってまちまちでしょう。
「生活指導」の定義は、学習指導要領に明記されているわけではありません。そのため、少なくとも中学校の現場では「生活指導」という名の下に、形骸化した校則を守らせたり、何のために行うのかよくわからない活動を行わせたりするといった現状も見受けられます。
考えるべきは、「何のために」指導をするのか、課題は? 目的は? どんな子どもを育てたいのか。そのために、子どもにどんな「手段」や「支援」が必要だったのか。
特に初任者の場合には子どもとの信頼関係が浅いため、頭ごなしに叱ったり、闇雲に褒めたりしていては逆効果になることもあります。そうならないようにするには、子ども理解から始めていくことが大切です。
私は、かつての自分への反省の意味も込めて、若手さんには、安易に「叱り方」だけを真似して、信頼を失ってしまうような教員にはなってもらいたくないと思っています。
何より、ミドルリーダーは裁判官であってはならないと考えています。保護者からクレームが来たときもそうです。若手さんに対してやってはいけないのは、即座に「ジャッジを下す」ことです。
かといって「この保護者、最悪だね」とか「悪いのは子どもだから」などと言うのもよろしくありません。課題が解決しないばかりか、若手さんの成長を阻害してしまうからです。
では、具体的にどうすればよいのでしょうか。まずは保護者は最終的に何を望んでいるのか、教員側は何を望んでいるのか、お互いの最終的なゴール地点を探っていくこと。次に必要なのは、「事実と解釈を分ける」ことです。
クレーム対応をする際、「事実」は誠実に受け止める。それに対して、個人の「解釈」については、あまり重く受け止めすぎないようにする。そのほうが心身の健康のためによいと思われます。
ゴール地点と課題解決の手段が明確になったら、あとはやはり「チームで対応」です。管理職や他の教員とも連携を図ります。ミドルさんは周囲の教員や保護者に、若手さんも「目的に向かって改善しようと努力している」ことを伝えていきます。無事、騒動が収まって落ち着いたら、若手さんと一緒に冷静に振り返りをしてみましょう。
2〜3年目の若手さんへの寄り添い方
2年目の研究授業、何をすればいいの?と悩んでいる若手さんもいるかもしれません。
校内研究などの場合には、あらかじめ研究主題が設定されていますが、それとは別に個人の目標を決めておくようにします。研究授業の成功の秘訣は、目標を「たった一つだけ」に絞ることです。そうするだけで授業を組み立てやすくなり、研究発表後のフィードバックも受けやすくなります。
2~3年目の研究授業は、「新しい授業スタイルの提案」というよりも、「若手教員の授業力向上」を重視している場合が多いものです。そのため、「新しさ」や「カッコよさ」を意識する必要はありません。ミドルさんから「シンプル・イズ・ザ・ベストだよ。自分の授業の課題と向き合えれば、それでいいんだから」と伝えてあげるとよいでしょう。
心がけたいのは、研究授業当日だけでなく、研究授業までの過程を含めてフィードバックすることです。そうすれば、若手さんに「研究授業は、そのときだけパフォーマンスを発揮できればよいわけではなく、それまでの学習の積み重ねが大切なんだ」ということを、肌で感じてもらうことができるでしょう。
さて、多くの若手さんが恐れているであろうことの1つに学級崩壊があります。少しでもその兆候が見え始めると、あれよあれよという間に若手さんの元気がなくなっていきます。
理想は早期発見&早期対応ですが、若手さんの手に負えないようであれば、迷わずチームで対応します。もうこの時点ですでに若手さんは十分申し訳なさと、うしろめたさを感じているはずなので、「なぜ、そうなってしまったの?」などとさらに追い詰めるようなことを言うのは避けなければなりません。
伝えるべきは「大丈夫だよ、みんなで支えるからね」であり、つまずいた状態から再び立ち上がれるようにするきっかけをつくることです。
学級は、ある日突然崩壊するわけではありません。必ず何らかの兆候があります。例えば、教室にごみが落ちていることが増えたり、ロッカーの上が散らかってきたり、保健室に行く子や授業中にトイレに行く子が増えたりするといった兆候です。クラスでこのような様子が見られたとき、ミドルさんが取る行動は次の2つのパターンに分かれます。
・兆候を口で伝えるだけで傍観する
・兆候を伝えると同時に自分も動く
前者のミドルさんは「先生のクラスのロッカー、最近散らかっているでしょ。あれ、まずいよ。早めに何とかしないと」と伝えるだけです。内心「あとは任せたよ。だってもう初任者じゃないんだから、それくらい自分で考えて何とかしてよ」というスタンスです。担任自身による成長に期待しているのでしょうが、若手さんは救われません。
一方で、後者のミドルさんは次のように伝えて若手さんを支えようとします。「先生のクラスのロッカー、最近散らかっていて気になるんだ。学級が荒れ始める前に、早めに対処しておいたほうがいいから、今日クラスの子どもたちに話をしておいたよ。先生からも明日話をしてみたら?」。
若手さんが、安心して次の一歩を踏み出せるようにしてあげましょう。
4〜5年目の若手さんへの寄り添い方
先輩から「あれやった?」「これやった?」と確認してもらう段階を卒業すると、今度は自分の仕事の質が気になり始めます。
ミドルさんとしては「特に言うことがないくらい十分にできている」からこそ、何も言わないだけなのですが、若手さんとしては「何も言われない」ことに対して不安を感じることがあるようです。この段階になると私は、「いよいよ一人前になり始めた証拠だな」と感じて、うれしい気持ちになります。
このような悩みや不安を覚えるのは、周りを見渡す余裕ができて視野が広がり、他者の立場に立って自分の仕事を振り返ろうとしているからです。そこで、若手さんに対しては「あなたのおかげですごくいい行事になったよ。ありがとう。特に子どもたちのやりたいことをバックアップしてあげたところがよかったね」などとポジティブにフィードバックします。
その上で「あなたとしては、何か気になっていることや、もっとできそうだと感じていることはある?」と心境を聞きながら、今後について一緒に振り返りをしていくとよいでしょう。
こうした不安は、まだ経験の浅い若手さんにふとした瞬間に突然襲ってきます。「子どもたちのことがわからない」「子どもたちから自分がどう思われているか不安」などもそうです。
先輩教員に言わせれば、「そんなこと気にしたって仕方がないでしょ。わからないなんて言っていないで、わかるように努力をするしかないよ」「自分がどう思われているかより、子どもたちに何をしたいか、最上位の目的のほうが大切でしょ」なんて言いたくなるところでしょう。
しかし、ミドルさんや周りの教員が「くだらないことで悩んでいるなぁ」と捉えて流すか、「悩んでいるみたいだから成長のチャンスだな」と捉えて、何かきっかけを与えるかどうかで、若手さんの今後の教員人生が変わっていくのです。こうした不安を抱えている若手さんは、大きく3つのパターンに分かれます。
①子どもとの距離を感じているパターン
②実際に大きな原因が隠れているパターン
③性格的に漠然と不安を抱えやすいパターン
①については、がむしゃらに子どもと同じ時間を過ごしていた初任時代と比べると、子どもと過ごす時間が減ってしまう若手さんも出てきます。
ミドルリーダーのみなさんはご存じだとは思いますが、いくら同じ空間で同じ時間を過ごしていても、子どもを「見ようとする」姿勢をもっていなければ、何も見えていないのと同じです。そこで、悩んでいる若手さんには「自分は子どもを見ようとしているか」「自分から心の距離をつくってしまっていないか」について、今一度振り返ってみるよう促します。
②は、不安に感じた最初のきっかけは些細なものだったとしても、よく調べてみると大きな問題が潜んでいることもあります。
つまり、若手さんも何かしらの予兆を察知している可能性もあるということです。この点を重視し、周りの先生たちも、より若く、より子どもに近い若手さんの感性に目を向けて、若手さんがそう思うに至った経緯に耳を傾けることが大切です。このパターンで必要なことは、安易に「スルーしない」ということです。
③は、周りに細やかに気を配り、物事を深く考える力のある若手さんほど、人より多くの悩みや不安を抱えます。そのこと自体は決して悪いことではなく、特異な才能である場合もあるくらいです。ただ、不安ばかりを抱えてしまう繊細さは、若手さんがよりよい教員生活を送る上での障壁ともなりかねません。
そのため、早い段階で「悩んだときはとにかく動く」「不安は動いてかき消す」といったルーチンを身につけられるようにサポートしたいものです。
「雨降って地固まる」。若手さんとミドルさんが共に悩み、失敗しながら成長していく姿を見ていると、そんな言葉が浮かんできます。トラブルやネガティブな出来事は、何も悪いことばかりではありません。乗り越えたその先には、大きな成長や幸せな人生が待っている、ということも多々あります。
悩む力がある若手さんには、その反動で大きく成長する力があります。後ろ向きになる若手さんは、その力の向きを変えて、前向きに行動することだってできます。
ネガティブもポジティブも表裏一体です。物事は何がきっかけとなって好転するか、誰にもわかりません。もしかすると、若手さんが成長するカギは、ミドルさんである「あなた」が握っているかもしれません。
(注記のない写真:すべて東洋館出版社提供)