いじめが増える時期は6月と11月

学級経営には、これまで実践的に3回の危機があると言われてきました。6月、11月、そして2月です。先生方の実感としてはいかがでしょうか。「あるある」と賛同する方もいれば、「それはどうかな」と懐疑的な方もいることでしょう。

脳科学者の中野信子氏は著書『ヒトは「いじめ」をやめられない』(小学館新書)の中で、いじめが増える時期は6月と11月だと指摘し、注目を集めました。

安心ホルモンであるセロトニンの分泌や合成が、日照時間などの変化によって5月から6月、10月から11月にうまくいかなくなり、その結果、不安が強まりうつ状態を経験しやすくなると言います。セロトニン不足は、不安を強めるだけでなく、暴力性が高くなるなどの傾向があるのだそうです。

学校現場では、どのようなことが起こっているでしょう。数は多くありませんが月別にいじめの認知件数をまとめた自治体のデータを調べてみると、6月と11月に大きな山、そしてそれらに比して小さなものですが、2月にも山が確認できました。

学校における月別の負傷や疾病の件数も、小中高等学校いずれも6月、11月、そして2月に多くなっていました(独立行政法人日本スポーツ振興センター『学校等の管理下の災害 [令和5年版] 令和4(2022)年度データ』2023)。6月、11月の学校は、研究授業や行事なども盛んになってきて、ただでさえ慌ただしい状況であることは学校現場で働いたことがある方ならご存じのことでしょう。

この時期は生物的、個人的要因だけでなく、環境的、社会的要因も重なって、怪我や病気だけでなく、人間関係上のトラブルも起こりやすくなっているのかもしれません。学級が、この時期に荒れたり不安定になったりする可能性があることは、知っておいてよいのではないでしょうか。

学級が荒れるのは必要なことを「知らない」だけ?

学級が荒れると「自分には力がないから」と考える方がいますが、それは資質とか能力の問題ではなく、必要なことを「知らないから」かもしれません。

教科指導にも基礎や基本があるように学級経営にも基礎や基本があります。教室は教師と子ども、また子ども同士の個別の物語の絡み合いですから、十把一絡げに捉えることができませんが、やはりそこは人と人の営みが成り立つための必要条件や前提条件があろうかと思います。

赤坂真二(あかさか・しんじ)
国立大学法人上越教育大学教職大学院教授
19年の小学校勤務を経て2008年4月より現職。現在は、教員養成にかかわりながら小中学校の教育活動改善支援、講演、執筆活動をしている。学校心理士、日本授業UD学会理事、日本学級経営学会共同代表理事、NPO法人全国初等教育研究会(JEES)理事。『指導力のある学級担任がやっているたったひとつのこと』『アドラー心理学で変わる学級経営』『学級経営大全』『明日も行きたい教室づくり クラス会議で育てる心理的安全性』(いずれも明治図書出版)、『赤坂版「クラス会議」完全マニュアル 人とつながって生きる子どもを育てる』(ほんの森出版)など著書多数
(写真:赤坂氏提供)

これまでの研究者や実践家の主張においては、学級集団の安定は2つの関係性の構築によってもたらされると述べられてきたと捉えています。1つは「規範やしつけを通じたつながり」、もう1つは「互いを思いやる共感的なつながりや心の通い合い」です。

規範やしつけの話をすると、管理や強制と結びついてネガティブなイメージを持つ方もいるかもしれませんが、人が複数集まる場には、ある程度の価値や態度、行動様式の共有が必要となります。前回申し上げた心理的安全性も、そうした共有事項の問題です。

心理的安全性・行動分析の研究を行っている石井遼介氏は、日本の組織における心理的安全性の構成要因には、「話しやすさ」「助け合い」「挑戦」「新奇歓迎」といったものがあることを見いだしました(『心理的安全性のつくりかた 「心理的柔軟性」が困難を乗り越えるチームに変える』日本能率協会マネジメントセンター)。

何でも言えるとか、困ったときはお互い様だから助け合うなどの状態は、そうしたことの価値や行動が共有されて実現します。これらの行動が促進されるためには、互いの話を傾聴する姿勢や人を傷つける言動をしないなどの共通の行動様式の共通理解も必要となるでしょう。良好な関係性は、他者を尊重したり、互いに信頼し合ったりするための行動の共有によってできてくるのです。

このような他者と良好な関係を形成するための行動様式は、共感的なつながりや心の通い合いをつくり、教室の過ごしやすさや学びやすさを形成していくことでしょう。共通の行動様式が先か、共感的な関係が先かは議論が分かれるところですが、こうした2つの関係性が相乗作用を起こしながら、教室の秩序を形成していくと考えられます。

秩序が整った教室とは、ルールで統制された教室ではない

私たちの生活する社会の安定が、秩序を基盤に成り立っているように、安定した教室を成り立たたせているのも、秩序だと言えます。

現在の学級経営には、「~してはいけない」といった禁止事項が多く存在する一方で、互いが過ごしやすくなるための良好な関係性を促進する行動様式があまり教えられていないのではないでしょうか。そのために、ルール、規範を指導すると禁止事項が増えて雰囲気が悪くなるという認識をもっている方がいるのかもしれません。

確認のための申し上げておきますが、秩序が整った教室とは、禁止ルールで統制された教室のことではなく、互いの人権が尊重され、良好な関係性が促進される行動等が共通理解されたぬくもりのある教室です。

秩序がほころんでくるとクラスは荒れると考えたほうがいいでしょう。5月から6月に学級が荒れるとしたら、それは学級内の秩序がほころび始めているのかもしれません。教室の荒れは、時間を守らなくなった、整理整頓が行き届かなくなっているなどのことから始まり、やがて言葉遣いが悪くなるなどの姿として表れることでしょう。それらは子ども同士の関係性の悪化につながり、学級経営に深刻な影響をもたらす場合があります。

クラスが荒れてくると教師がやりがちなのが、時間を守るよう注意すること、整理整頓を呼び掛けるなど、直接的に行動の修正をしようとすることです。学級経営に関する研究では、子どもたちのルールを守ろうとする意欲は、教師との関係性や教師がどう見られているかということと関連しているという指摘がなされています。つまり、教室の秩序のほころびは、教師と子どもの関係性のほころびだと捉えていい場合も少なくないのです。

関係性がほころんでいる子どもたちに、「時間を守りなさい」「整理整頓をしなさい」「あいさつをしなさい」と言ったらどういうことが起こるでしょうか。関係性は、さらにほころび、行動の修正どころか悪化が予想されます。最初の学級の荒れを迎えるこの時期、まずは先生方が自分自身の気持ちを落ち着けて、笑顔で教室にいるようにしてはいかがでしょうか。

そして、子どもたちに求めすぎて、注意や叱責が多くなっていないか、子どもたちのできている部分を見落としていないかなどを振り返ってみてはいかがでしょうか。ゴールデンウィークを過ごして、4月に伝えたことを忘れてしまった子どもたちも少なくないはずです。一人ひとりとの信頼関係を確かめながら、リスタートのつもりで丁寧な声かけをしていきたいものです。

(注記のない写真:ペイレスイメージズ1(モデル) / PIXTA)

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