記事の目次
「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実を目指して(著:奈須正裕ほか)
学びにくさのある子への読み書き支援(著:井上賞子)
DCD 発達性協調運動障害 不器用すぎる子どもを支えるヒント(著:古荘純一)
奇跡のフォント(著:高田裕美)
HSCがありのままで幸せになれる教室(著:杉本景子)
教師のための「非認知能力」の育て方(著:中山芳一)
生産性が爆上がり!さる先生の「全部ギガでやろう!」(著:坂本良晶)
今日から残業がなくなる!ギガ先生の定時で帰る50の方法(著:柴田大翔)
攻める学級経営/守る学級経営(著:三好真史)
不適切な関わりを予防する 教室「安全基地」化計画(著:川上康則ほか)

「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実を目指して(著:奈須正裕ほか)

「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実を目指して
『「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実を目指して』(北大路書房)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

2023年5月、新型コロナウイルスが5類感染症に移行されて以降、学校にも徐々に日常の生活が戻ってきた。

コロナ禍では、新学習指導要領による教育改革やGIGAスクール構想で整備された端末の活用が思うように進まないことも多くあったが、学習指導要領に基づく児童生徒の資質・能力の育成に向けた「個別最適な学び」と「協働的な学び」の実現に向けたさまざまな実践が現場に広がってきている。

そんな中、『「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実を目指して』(著:奈須正裕、大豆生田啓友、加藤幸次、松村暢隆、浅野大介、堀田龍也、荒瀬克己ほか/北大路書房)は11月に刊行された。中央教育審議会をはじめ、昨今の教育改革のど真ん中に位置するメンバーを中心に書き上げられた1冊だ。

すべての子どもたちの可能性を引き出す、個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実とは……。本書ではこの問いに迫るために、現状において考えうる多様な回答を理論と実践の両側面から検討している。「一人ひとりの子どもを主語にする学校教育」の実現に向けて、いま何ができるのか。その手がかりがここにあるのではないだろうか。

学びにくさのある子への読み書き支援(著:井上賞子)

学びにくさのある子への読み書き支援-いま目の前にいる子の「わかった! 」を目指して (ヒューマンケアブックス)
『学びにくさのある子への読み書き支援—いま目の前にいる子の「わかった!」を目指して』(学研プラス)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実が、ますます重要になっている背景として多様な子どもたちが増えていることが挙げられる。

発達障害のある子どもや不登校の子ども、海外にルーツを持つ子ども、特異な才能のある子どもなど、子どもたちの個性や特性に合わせた学び方、また学びを選択できる環境の整備が求められるようになっている。

『学びにくさのある子への読み書き支援—いま目の前にいる子の「わかった!」を目指して』(著:井上賞子/学研プラス)では、通常の指導では学びにくい子たちが「この方法ならできる」という手立てを見つけ、自力で「学びきった」体験を重ねるための読み・書きやコミュニケーションに関する支援、指導のコツが、豊富な実践事例を通して具体的にわかるようになっている。

著者の井上賞子氏は、いち早くICTを活用した特別支援教育を実践してきた島根県安来市立荒島小学校の教員だ。児童生徒の学びや生活をテクノロジーで支援する東京大学先端科学技術研究センターとソフトバンクによる実践研究プロジェクト「魔法のプロジェクト」でも多数の優れた実践研究を重ね、マスターティーチャーにも認定されている。

ここでは、教師の「方法の選択肢」を広げることも狙っている。すべての学校が学び方の選択に対して柔軟に対応できるようになっていくことが望まれる中で、子どもの学びにとって必要なら、ICTも、アナログ教材も、どちらもどんどん使う!のが本書の目指すところだ。

DCD 発達性協調運動障害 不器用すぎる子どもを支えるヒント(著:古荘純一)

DCD 発達性協調運動障害 不器用すぎる子どもを支えるヒント (健康ライブラリー)
『DCD 発達性協調運動障害 不器用すぎる子どもを支えるヒント』(講談社)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

学習面や行動面に困難さがあるなど、発達障害の可能性のある小・中学生は8.8%、11人に1人程度在籍している(文部科学省「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査」)。

そうした発達障害の1つである「発達性協調運動障害(以下、DCD)」をご存じだろうか。自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)、学習障害(LD)などに比べて認知度が低く、多くが見過ごされているという。

転びやすい、着替えができない、なわとびがとべない、自転車に乗れないなどは、子どもと過ごす生活の中で、日常的によくある光景だろう。だが、DCDは、極端に不器用で、日常生活にさまざまな困難を伴う。

協調運動の不具合で起こるため、診断がつかずに困難さを抱えたまま学童期を迎えることが多く、周囲からは理解されず、生きづらさを抱えているケースも少なくない。

『DCD 発達性協調運動障害 不器用すぎる子どもを支えるヒント』(著:古荘純一/講談社)では、DCDという疾患がどんな症状を呈し、どんな生きづらさを伴っているのかを解説するとともに、実例を多くあげて本人・家族が抱える困難さの現状、支援方法やアドバイスを紹介している。

つい「苦手なことは練習を重ねて克服できるようにしてあげよう」と考えてしまいがちだが、脳の特性によってどんなに頑張ってもみんなと同じように動くのが難しい子がいること、他者と比べると深刻な2次障害が起こりうることを知るだけで救われる子がいる。

奇跡のフォント(著:高田裕美)

奇跡のフォント   教科書が読めない子どもを知って―UDデジタル教科書体 開発物語
『奇跡のフォント 教科書が読めない子どもを知って―UDデジタル教科書体 開発物語』(時事通信社)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

授業が始まり、教科書を開く。そこに書かれた文章を読む。何げない行為だと思うかもしれないが、ロービジョン(弱視)やディスレクシア(読み書き障害)など、文字や文章を「読む」ことに困難を抱えている子どももいる。

そういった子どもたちでも読みやすいようにと開発されたのが、「UDデジタル教科書体」だ。学校教育のために作られたこのフォントの生みの親が、書体デザイナーの高田裕美氏。

その著書、『奇跡のフォント 教科書が読めない子どもを知って―UDデジタル教科書体 開発物語』(著:高田裕美/時事通信社)は、読み書き障害でも読みやすいフォントが生まれるまでのノンフィクションになっている。

教育現場で大活躍しているフォントを作った書体デザイナーの物語。 多様性の時代における教育・ビジネスのヒントになる1冊ではないだろうか。

HSCがありのままで幸せになれる教室(著:杉本景子)

HSCがありのままで幸せになれる教室ー教師が知っておきたい「敏感な子」の悩みと個性ー
『HSCがありのままで幸せになれる教室—教師が知っておきたい「敏感な子」の悩みと個性—』(東洋館出版社)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

子どもたちの多様性に応じた学校づくりが求められる中で、教育関係者が理解しておく必要があるものの1つに「HSC」がある。

1996年にアメリカのアーロン博士が提唱したHSP(Highly Sensitive Person)は、生まれつき敏感な気質をもった人を意味し、とくに子どものことをHSC(Highly Sensitive Child)と呼ぶ。約5人に1人いるといわれており、どのクラスにもいて、おそらくすべての先生が接しているのではないかと考えられる。

思慮深く、他人の気持ちに敏感で、ささいな変化に気が付き、慎重に行動するという特徴がある。そのためHSCにとって学校生活は刺激が強く、緊張やプレッシャーを感じる場面も多いという。ほかの子どもたちには効果的な声掛けや接し方であっても、HSCには逆効果という場合もあり、HSCの子にあわせた指導が学級の安定にもつながる。

そんなHSCの子を理解するのに役立つのが、『HSCがありのままで幸せになれる教室—教師が知っておきたい「敏感な子」の悩みと個性—』(著:杉本景子/東洋館出版社)。

HSCがストレスやプレッシャーを感じることなく学校生活を送るために、教員はどのような環境を心がけるべきか。NPO千葉こども家庭支援センター理事長で千葉市スクールメディカルアドバイザーも務める筆者がわかりやすくまとめている。

教師のための「非認知能力」の育て方(著:中山芳一)

教師のための「非認知能力」の育て方
『教師のための「非認知能力」の育て方』(明治図書出版)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

2017年改訂の学習指導要領では、これからの時代に求められる資質・能力として「知識及び技能」に加えて「思考力、判断力、表現力等」「学びに向かう力・人間性等」が盛り込まれ、学校現場でも非認知能力の育成が重視されるようになった。

読み・書き・計算などの学力やIQといった数値化できる、評価測定できる認知能力に対し、数値で表せないのが「非認知能力」。評価測定できない、忍耐力や自制心、協調性、コミュニケーション力などを指す。

その中から、『教師のための「非認知能力」の育て方』(著:中山芳一/明治図書)では、学校で活用できる「自分と向き合う力、自分を高める力、他者とつながる力」に着目。非認知能力を認知能力と合わせて育成する方法を、5つのステップにわけて小・中学校・高等学校などの実践例とともに詳しく紹介している。

筆者の岡山大学教育推進機構准教授・中山芳一氏は、岡山県内をはじめ大阪府や京都府などで、非認知能力育成のための研修も行っている。非認知能力の育成について研究する中山氏の知見がたっぷりと学べる1冊だ。

生産性が爆上がり!さる先生の「全部ギガでやろう!」(著:坂本良晶)

生産性が爆上がり!さる先生の「全部ギガでやろう!」
『生産性が爆上がり!さる先生の「全部ギガでやろう!」』(学陽書房)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

GIGAスクール構想によって公立の小・中学校に1人1台の端末が整備されて、もうすぐ丸3年が経つ。

学校現場に立つ先生から実践的なICTの活用に関する情報発信も多く出てきているが、『生産性が爆上がり!さる先生の「全部ギガでやろう!」』(著:坂本良晶/学陽書房)は、授業にとどまらずICTを核として学級経営や働き方のすべてをよくしていこうという、欲張りな1冊だ。

著者である「さる先生」こと坂本良晶先生が、日ごろ使っている教育用アプリ「Canva」「Padlet」「Kahoot!」「Flip」の使い方や、子どもがどんどん学びを深めることのできるタブレットを活用した具体的な授業事例が豊富におさめられている。「最初から上手に使いこなせたわけではない」という著者の試行錯誤の末の授業づくりは、多くの先生の参考になるのではないだろうか。

ICTを使わなかったときに比べ授業は楽しくなり、それに伴いクラスの雰囲気もとてもよくなったという。さらに毎日、ほぼ定時に退勤しているというさる先生の仕事術も読み応えがある。ICTを徹底的に活用することで「教師の仕事がこんなに変わるのか」と。たくさんの活用例が紹介されているから少しずつでも試してみたい。軽快な文体でサクサクと読めてしまうので1冊があっという間だが、課題に応じて必要な章ごとに読むという読み方もいいかもしれない。

今日から残業がなくなる!ギガ先生の定時で帰る50の方法(著:柴田大翔)

今日から残業がなくなる!ギガ先生の定時で帰る50の方法
『今日から残業がなくなる!ギガ先生の定時で帰る50の方法』(学陽書房)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

学校の働き方改革がいわれて久しいが、教員不足などにより学校は慢性的な人手不足が続いていて、苦境に立たされている学校、先生は多い。だが、そんな中でも自身の働き方を見直して、仕事もプライベートも充実させている先生は多くいる。

大阪府で小学校教員をしている「ギガ先生」こと柴田大翔先生は、その1人だ。かつては毎月の残業時間100時間超えが当たり前、土日も学校に行っていたが、「このままの働き方で本当にいいのか」「もっとみんなが幸せになる働き方があるのではないか」と思い始めたのが働き方を見直すきっかけになったという。

ありとあらゆるアイデアや方法を駆使した結果、残業はMAXで145時間あったにもかかわらず、ほぼ毎日定時退勤に。『今日から残業がなくなる!ギガ先生の定時で帰る50の方法』(著:柴田大翔/学陽書房)は、そんな柴田先生が実践しているスケジュールの立て方や授業準備、丸つけのコツ、整理整頓、生活習慣に至るまで幅広いジャンルのアイデアが満載。タブレットの活用法やお役立ちグッズも紹介している。

「子どもたちのために手は抜きたくないけど、自分の時間も大事にしたい」。教師の仕事量が増す一方の中で、頑張り続けている先生に読んでほしい1冊だ。

攻める学級経営/守る学級経営(著:三好真史)

攻める学級経営
『攻める学級経営』(東洋館出版社)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

教師の本業は「子どもと向き合うこと」、その中核はやはり授業だろう。その授業をよりよくするために必要なのが学級経営だ。

学級経営に関する本は数多くあるが、『攻める学級経営』『守る学級経営』(著・三好真史/東洋館出版社)は、元公立小学校教諭で現在は京都大学大学院教育学研究科に在籍する三好真史氏が、学級経営を2つの側面から扱った本だ。

学級経営には、安定した状態と、不安定な状態がある。安定している学級は、子どもが落ち着いて学習に向かうことができており、教師と子どもの関係が良好で、子どもと子どもの関係も良好に構築されている。

そのような学級には、学級の力をさらに高めていく手法が必要になるため、「攻める学級経営」が必要である。一方、不安定な学級は、学級が不安定な状態から崩さないようにしつつ、少しでも安定させるための手法が求められるため「守る学級経営」が必要というわけだ。

守る学級経営
『守る学級経営』(東洋館出版社)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

教育実践が、うまく学級の実態にそぐわない。また学んだ実践が、担任する学級に響かない。そんなときは『攻める学級経営』と『守る学級経営』の2冊を読み比べてほしいという。

『攻める学級経営』では、教師のリーダーシップの正しい発揮の仕方や子どもの怠惰な行動の引き締め方、子どもを伸ばす授業のつくり方、学級力の底上げの仕方などをまとめている。

『守る学級経営』では、学級の悪化を防ぐ指導や学力を保障する授業のつくり方、学級崩壊への対策などがまとめられている。三好先生は、自身もいわゆる「荒れた学級」の経営にあたった経験を持つ。崩壊へと進み始める学級を、どのように食い止めるのか。学級の状態が悪化しないようにするためにできることは何なのか。そうした切実な悩みを持つ先生は『守る学級経営』から読むのがお薦めだ。

不適切な関わりを予防する 教室「安全基地」化計画(著:川上康則ほか)

不適切な関わりを予防する 教室「安全基地」化計画
『不適切な関わりを予防する 教室「安全基地」化計画』(東洋館出版社)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

教室マルトリートメントという言葉をご存じだろうか。教室内で行われる指導のうち、体罰やわいせつ行為のような違法行為として認識されたものではないけれども、日常的によく見かけがちで、教室で行われる子どもの心を傷つけるような不適切な指導を示す。杉並区立済美養護学校の川上康則先生の造語だ。

川上先生は、2022年4月に刊行した『教室マルトリートメント』(東洋館出版社)で、これまでグレーゾーンとされてきた教師の不適切な関わりを単に教師個人の資質や能力の問題として捉えるのではなく、むしろ誰もが陥る可能性があり、かつ教育界の構造的な問題に端を発している課題と考えるべきではないかと指摘。刊行記念として教育関係者向けに開催したオンラインセミナーの内容を書籍化したのが本書『不適切な関わりを予防する 教室「安全基地」化計画』(著:川上康則ほか/東洋館出版社)だ。

臨床心理士で一般社団法人ジェイス代表の武田信子氏とは「やりすぎ教育と教室マルトリートメント」、臨床心理士で公認心理師そして『〈叱る依存〉がとまらない』(紀伊國屋書店)の著者である村中直人氏とは「学校現場の〈叱る依存〉と教室マルトリートメント」、評論家でNPO法人ストップいじめ!ナビ代表の荻上チキ氏とは「子どもの心理的危機対応とは何か」の3つのテーマから不適切な指導への予防策を考える。

書名にある「安全基地」とは場所のことではなく、人の役割や働きかけのことを指し、発達心理学の用語。人が主体的に行動しようとする際には、喜んでその背中を送り出してくれるような空港の滑走路のような役割を果たし、何かあったときに戻ってくることができる、安心感のある場所が必要だ。本書は、教室を子どもたちの「安全基地」にしていくことを目指した1冊だという。

(注記のない写真:Fast&Slow / PIXTA)