31歳・埼玉の公立高校教諭は、米コロンビア教育大学院留学で何を学んだか? 先生にこそ「海外留学」勧める、納得の理由

普通の高校教師が、起業家になるまで
2022年5月に米コロンビア大学教育大学院の修士課程を終え、日本に帰国した元公立高校教員の田原佑介さん。卒業後、海外進学をサポートする教育ベンチャーLOOPAL(ルーパル)を起業。今年から生徒を募集し、海外大学への学部進学、大学院進学を支援するサービスを開始した。
もともと田原さんは埼玉県の公立高校の英語教員。昨年留学するまで一度も留学経験はなく、壮大な夢もなかったという。当時30歳。そんな若者が、なぜ米国の教育大学院に留学しようと思ったのだろうか。
田原さんは教員時代に2つの高校で計8年間勤務をした。その間に、6年間ほど「授業力の向上を目指す」教育NPOに所属し、活動した。そこでは、各教員の授業力に差があるのを前提として、組織的に教員の授業力をアップさせるにはどうすればいいか、よりよい教育環境をつくるための学校や組織づくりはどうあるべきか、といったことに興味を持つようになった。その流れで、経済産業省「未来の教室」実証事業である「Hero Makers」などに参加し、地元の教育委員会にも提言を行った。しかし同時に、1人の公務員がやれることの限界を感じるようになったそうだ。

「ほかにも、新たな学校づくりの1つとして、生徒の『海外大学への進学』をサポートする体制を実現したいと考えました。そもそも偏差値偏重で評価されがちな日本の大学受験に、なじまない子は少なくありません。もし別の評価軸があれば、輝ける子はたくさんいるはずなのに、もったいないと考えていました。世界を見れば、有力な大学はたくさんあり、それぞれの大学が評価し、求めている学生はさまざまだからです」
実際、田原さんの生徒の1人は「日本の大学より魅力的だ」という理由でオランダの大学に留学したそうだ。留学準備は日本の公立高校のカリキュラムでも、十分に対応できたという。
「たとえ公立高に通っていても海外進学は可能なのです。しかし、最終的に海外大学への進学をサポートする体制づくりは失敗に終わってしまいました。その時、自分が考えている新しい仕組みをつくれる教育者には、いったいどうすればなれるのか、そう考えたのです。その結果、自らも教育イノベーションを学ぶため、海外大学院への留学を考えるようになりました」
海外大学院への留学準備を始めたのは2020年。大学受験を控える高校3年生の担任をしながらだった。仕事に専念する一方で、主に早朝と夜、それ以外の空き時間も利用して勉強を続けた。ときには、受験勉強をする生徒の傍らで、自らも試験対策の勉強をしていたという。そのかいあって、いくつかの米国の教育大学院に応募したところ、コロンビア大学教育大学院に奨学金付きで合格。ほかにもフルブライト奨学金など計3つの奨学金を受けるという、すばらしい条件で留学生活がスタートした。21年秋からのコロンビア大学教育大学院での留学生活は、どのようなものであったのだろうか。

米国で見えてきた「日本の公教育のよさ」
「勉強はハードでしたが、大学がニューヨークにあったので、学内外のいろんな人から話を聞くことができましたし、人的ネットワークも広げることになりました。また、ラッキーなことに20年度と比べコロナ禍による規制も緩和され、学内も正常化へと向かっていたため、日本で想像されるような困難はそれほどありませんでした」