開校1年目から注目を集め、3801名の総出願者数を記録

東京・文京区にある広尾学園小石川中学校・高等学校(以下、広尾小石川)は、2021年の中学校入試において、大きな注目を集めた学校だ。総出願者数が3801名を記録。これは同年の都内の私立中学校入試の中で、断然のトップだった。

広尾小石川は、前身の村田女子高等学校を受け継ぎ今年度開校したばかりの新設校である。また、近年難関大学への進学実績で著しい成果を上げている広尾学園中学校・高等学校(東京・港区 以下、広尾学園)の姉妹校でもある。

そんな新しい学校が、初めて生徒募集を行った21年入試において、いきなり高い人気となった理由について、副校長の奥田克己氏は「広尾学園の教育連携校である本校で新たな歴史をつくってみたいという思い。これからの時代に求められる教育を行ってくれるのではないかという期待感。これらさまざまな要因が重なり合った結果だと思います」と語る。

広尾学園の姉妹校として今年度開校した広尾学園小石川中学校・高等学校

広尾小石川の特徴として、まず本科コースとインターナショナルコースの2コースに分けたクラス編成がある。このうちインターナショナルコースは、海外滞在経験がある生徒を対象としたアドバンストグループ(AG)と、日本で生まれ育った生徒を対象としたスタンダードグループ(SG)に分けられている。

AGとSGは、体育や音楽などの技能科目を除いて授業は別々に実施するが、クラスは融合型となっており、ホームルームなどの活動はAGとSGの生徒が一緒に行う。また外国人教員と日本人教員のダブル担任制を採用している。

一方、本科コースでは、生徒たちは探究論文活動などを通じて、書く力や読む力、論理的思考力、発信力などを鍛えていくとともに、難関大学進学を実現できるだけの学力を身に付けていく。

新設校でありながら、高いレベルの教育を実現できる理由

生徒全員にMacBookを持たせ、情報収集をさせたり、プレゼンテーション資料を作らせたりといったように、デジタルツールを駆使した教育活動を展開していることも広尾小石川の特徴の1つだ。さらにはグループワークやグループディスカッションの機会も数多く設けている。

生徒全員にMacBookを配布するなど、ICTを活用した教育にも積極的だ

これに加えて広尾小石川では、英語力の育成に力を注ぐ。とくにインターナショナルコースのAGでは、国語や一部の社会科の授業を除き、外国人教員がオンリーイングリッシュで授業を実施。ちなみにAGに入学してきた生徒のほぼ全員が、海外大学への進学を希望している。ただし1年生の学年責任者の高橋祥久氏は、「生徒たちが国内大学への進学を希望した場合にも対応できるように、数学などの各科目について本科コースとカリキュラムや授業進度をそろえています。同じ内容の授業を英語で受けるか、日本語で受けるかの違いだけです」と話す。

一方SGについては、授業の多くは日本語で行われるが、前述したようにAGの生徒たちと同じクラスで学校生活を送り、また外国人教員と日本人教員のダブル担任制となっているため、英語に触れる機会は数多い。

インターナショナルコースのAGとSGは、体育や音楽などの技能科目を除いて授業は別々に実施するが、クラスは融合型だ。写真は高校AGの授業

実は、こうした「インターナショナルコースの設置」や「英語教育の充実」「デジタルツールを用いた先端的な授業」といった特徴は、そのまま姉妹校である広尾学園の特徴でもある。「広尾学園の生徒たちのように成長してもらいたいという思いから、本校の教育の方向性やカリキュラムについても、それにそろえたいと考えました」(奥田氏)。

広尾小石川では開校に当たって、広尾学園から14名の教員が異動してきた。このうち7名は、広尾学園のインターナショナルコースで教壇に立っていた外国人教員である。同校では広尾学園で培ってきた教育手法や人的資源を移入することによって、新設校でありながら、高い教育レベルの実現を図ろうとしているわけだ。

多様な世界に触れさせ、世界で活躍できる力を育んでいく

奥田氏は、「本校が目指しているのは、将来世界で活躍できる人材を育てること」だと話す。「そのためには自分とは異なるバックグラウンドや価値観を持っている人たちと、一緒に活動するという経験を積み重ねることで、多様性を受容し、また幅広い視点で物事を見る力を養っていくことが大切だと考えています」と語る。

その点、海外滞在経験のある生徒が数多く在籍している同校は、生徒たちが多様な価値観に触れ、視野を広げていくうえで、最適な環境にあるといえる。

広尾小石川には、誰もが自由に弾くことができるピアノが1台置かれているという。最初にこのピアノの前に座って演奏を始めたのは、AGの生徒たち。それが今では休み時間になると、SGや本科コースの生徒たちもピアノの周りに集まり、代わる代わる演奏するようになった。廊下のピアノが、本科とインターナショナルコースの生徒たちの関係を深める場となっている。

廊下に置かれているピアノが、本科とインターナショナルコースの生徒たちの関係を深める場となっている

また現在はコロナ禍のため実現できていないが、ランチタイムに生徒や教員が弁当を手に自由に集まり、英語のみでコミュニケーションを取ることができるエリアも設ける予定だという。

「生徒に対しては、教員も常々『一人ひとりの多様な個性を認めよう』というメッセージを発信しています。教室も1つの社会ですから、そこにはいろいろな性格や資質の生徒が在籍しています。自分の優れた部分については強みとして磨いていきながら、相手のよいところをちゃんと認め、尊重していける。教室ではそうした関係づくりを大切にしています」(高橋氏)

さらに同校では、多様な世界に触れさせることを目的に、生徒たちを学外へと連れ出すことも大切にしている。

例えば、同校の近隣に、アジア圏からの留学生が数多く寄宿しているアジア文化会館という学生寮がある。同校ではアジア文化会館と交流し、生徒が留学生に日本語を教えたり、逆に留学生から現地の文化を学んだりする活動を行っている。

また同じ文京区内の男子学生寮・和敬塾とも連携。和敬塾は場所柄、東大生や早大生、また留学生が数多く暮らしている。彼らから大学での教育・研究生活や、将来の夢についての話を聞くことは、生徒が自らの未来に思いをはせる貴重な機会となるはずだ。

奥田氏は「学校内外でのさまざまな活動の中で、生徒たちに失敗も経験させたい」とも語る。大人の目から見れば「そのまま続けても、きっとうまくいかないよ」とわかることでも、致命傷にならない範囲であれば、あえて声をかけずにずっと見守る。すると生徒は失敗を通じて、そこからいくつものことを学び、人間的に成長していく。

難関大学合格を実現するための“目に見える学力”と、さまざまな人との関わりや失敗体験を通じて培われていく“目に見えない学力”。広尾小石川では、その両方の学力を伸ばす教育を実践しようとしている。

(文:長谷川 敦、写真:すべて広尾小石川提供)