8割の学校が「自宅でのオンライン学習」を出席扱いに
「自宅でのオンライン学習については、一部の学校を除き、今はほとんどの学校が出席扱いとして認めていますね」
そう語るのは、クラスジャパン小中学園(以下、クラスジャパン)で設立時からアドバイザーとして関わり、2022年から同代表・校長を務める小幡和輝氏だ。
クラスジャパンは、不登校児童生徒の1人ひとりに「ネットの先生」がチャットを通じて伴走し、自宅学習をサポートするオンラインフリースクール。2018年に設立され、これまでの受講者は累計1000人以上に上る。最も多いのは、小学校高学年から中学3年までの不登校児童生徒だ。
子どもたちは、すららやeboard、スタディサプリ、デキタスといった、5教科を学習できる教科書準拠のオンライン教材などから、理解度に合った教材を選んで自宅学習を進めていく。ネットの先生は、学習計画の段階からサポートし、目標達成まで継続的にフォロー。また、eスポーツやプログラミング、イラストなどのネット部活動や、子どもたち同士のオンライン交流の場となっているホームルームも設けている。
サービスの大きな特徴は、月に1度、そうした子どもたちの学習面や生活面の頑張りをまとめた「学習レポート」を作成している点だ。保護者や学校から要望があれば、担当者が学習レポートについて直接説明を行っている。
しかし、学習レポートは最初からスムーズに活用されたわけではない。
2019年に文科省の通知「不登校児童生徒への支援の在り方について」が出され、不登校児童生徒のICT等を活用した自宅学習は、一定の要件を満たした場合に校長の判断で出席扱いや成績評価につなげられることになったが、クラスジャパンがサービスを始めた当時はICT活用が浸透していなかった。そのため、学校だけでなく受講者に対しても、Zoomの使い方などの説明から始める必要があったという。
「当時は文科省の通知も知られていないし、学校もどう認定すべきかわからなかったんです。具体的な基準が示されていなかったため、僕たちは経済産業省の『未来の教室』の事業として、17の自治体と一緒に認定のガイドラインを作り、1526の教育委員会に配布しました。そうした経緯もあり、当初は僕たちの取り組みが各自治体で初めての事例となることが多かったですね。でも、各自治体で1校でも認定されると、それが事例となって拡大していきます。コロナ禍で多くの学校がオンライン授業を経験したことも後押しとなり、今では学習レポートを提出した学校のうち8割程度は、出席として認めてくれるようになりました」
「登校して受ける定期テスト」が前提の「成績評価」
一方、出席扱いに比べて成績評価の取り組みは浸透していないようだ。文部科学省は、2023年3月の「誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策について(通知)」において、「教室以外の学習等の成果の適切な評価の実施」を明記。自宅等でのICT等を活用した学習活動については、可能な限り出席扱いとするとともに、学習評価をして成績評価に反映するよう求めている。
小幡氏も、出席は認定されやすくなったものの、成績評価にはまだ課題があると話す。
「自宅学習を出席扱いとし、成績評価に反映するケースはよくあります。そうした日頃の出席扱いに加えて、登校して定期テストを受ければ高く評価してくれる学校もあります。ただ、学校は基本的に、テストを学校外で受けることを認めません。理想としては、学校のテストを受けなくても、自宅学習や課外活動をきちんと評価されてオール5も目指せるようになるとよいのですが、現状の評価方法では難しい。公平性を担保する技術が出てこない限り難しいかもしれませんが、せめて家でテストを受けられるようになってほしいです。また、出席や成績評価の認定が校長の独断で変わる今のルールは、すごく問題だと思っています。いまだに出席を認めてもらえないケースはありますから」
そう考えるベースには、自身の経験がある。小幡氏は現在、29歳の若さでありながら、複数の事業を手掛ける経営者だが、実は約10年間、不登校だった。幼稚園時代から集団生活に違和感があって休みがちで、小学2年生のときに殴られるなどのいじめに遭って学校に行かなくなった。フリースクールや適応指導教室には通ったが、中学3年生までほとんど学校には登校しなかった。
「クラスジャパンで自宅学習をしている子たちは、『みんなは学校に行っている。自分は本当にこれでいいのかな』と不安に思っていることが多いです。僕自身も学校には行きたくなかったけれど、フリースクールでの活動が出席扱いになり、通知表にも反映されていたことは嬉しかった。子どもたちのモチベーションを育てていくためには、自宅学習の頑張りを学校が認めてくれて成績にも反映されるのはとても大事なことなのです。僕たちの取り組みに対して『安心して高校受験できるようになった』との声もいただいていますが、何よりも子どもたちのやる気やモチベーションを高めることが重要だと思っています」
「学校という箱」にこだわる必要はない時代
クラスジャパンでは、学習だけでなくオンライン上の部活動やホームルーム、発表会などの活動も大切にしており、子どもたちは大きく成長しているという。「企画や発表ができなかった子ができるようになる姿を見ると、すごくうれしいですね。外部のコンテストで受賞したり、自分が学びたいことを研究し続けたりする子もいて、それぞれにみんな頑張っています」と、小幡氏は話す。在籍校への復帰を勧めているわけではないが、受講者の5割程度は学校に復帰しているという。
また、通信制高校が増えている背景も大きいようだが、通信制高校に進学する受講者が多い。通信制高校に行くことをすでに決めていて、クラスジャパンを選ぶ中学生も少なくない。学校と連携して出席扱いにもなるので、「ある意味、通信制の小中学校になっている」と小幡氏は言う。
「高校には以前から通信制がありますが、コロナ禍前までは小中学校にはオンラインの選択肢はほぼありませんでした。だからこそクラスジャパンは設立されたわけですが、とくに居場所の選択肢が少ない地域の子どもたちこそ、積極的にオンラインを活用してほしい。一般的に地方にはフリースクールは数カ所しかありません。僕も和歌山県で生まれ育ちましたが、自転車で通える場所に自分に合ったフリースクールがあったのは奇跡的なこと。たまたま恵まれていただけなんです。オンラインによる教育がもっと充実していけば、都会と地方の教育格差是正にもつながっていくはずです」
不登校だった小幡氏は、自分の「得意」を生かして社会に出た。子どもの頃からゲームが大好きで、大会で活躍するうちに14歳頃からイベントの運営なども引き受け始め、高校3年生で起業。地元の観光を支援するSNSマーケティングやイベント制作などを手掛けるようになった。
その間、高校は夜間の定時制で学び、和歌山大学観光学部に進学。2017年には高野山で「地方創生会議」を成功させ注目を集め、Global Shapers(ダボス会議が認定する世界の若手リーダー)にも選出された。地方創生や地域活性化を軸に活動を続け、今は自身の不登校経験を生かそうと教育分野のビジネスにも力を入れている。
そんな小幡氏は、「これからは学校という箱にこだわる必要はない」と語る。
「確かに昔は、学校にさえ行けばコンテンツがすべて用意されているという箱としての価値があったので、不登校の子は学校に復帰したほうがよかった。しかし、今はオンラインで家でも学べます。僕が不登校だった頃に比べて、今は何でもできるなあと羨ましく思います。不登校を悲観的に思う必要はありません。学校に行けず悩んでいるお子さんや親御さんは、もっと気楽に考えてほしいですね。学習環境の変化を理解したうえで、どのような学びがベストなのかをゼロから再構築していく時代ではないでしょうか。学校の先生方にも、『学校で受ける定期テスト』を前提としない評価をお願いしたいと思います」
(文:國貞文隆、編集部 佐藤ちひろ、注記のない写真:Mills/PIXTA)