元アナウンサー・久保田智子が「姫路市教育長」に転身した深い訳 トップ交代の「変化」は現場を変える手段になる

特別養子縁組制度を通じて実感したこと
――TBSを退職され、2024年4月1日付で姫路市教育長(任期は3年)に就任されました。どのような経緯で教育界に入ることになったのでしょうか。
いくつか理由があるのですが、2017年からアメリカのコロンビア大学大学院でオーラルヒストリーの研究をしていたことが1つです。
個人の記憶を対話(インタビュー)を通して記録するのがオーラルヒストリーですが、自分が経験していないことを自分事として学ぶことができるすごい手法だと思いました。これを専門家だけでなく、広く子どもたちにも広げて、例えば平和学習などに活用したいと思うようになりました。
大学院修了後は、オーラルヒストリーを学生に教える活動を国内外の大学などで続ける中、2019~2023年まで姫路女学院の外部講師として、阪神・淡路大震災について対話を通して自分事として学ぶクラスを担当していました。
――そこで姫路市との縁ができたわけですね。
はい。また、私は特別養子縁組制度を通じて母親になり、今5歳になる娘を育てています。普通の子育てと大きな差はないと考えていますが、1つ違う点を挙げるならば、タイミングが異なれば娘はほかの家庭で育っていたのかもしれないということ。そう思うと、どんな環境にあっても子どもは幸せであるべきだということを、実感を持って強く感じるようになりました。
そこで子育てに悩む保護者に向けて、不登校や発達障害にどう向き合えばいいのかなど、メディアで情報発信を始めました。
そうした中で、「本当に困っている子どもたちを救えているのか」という思いも募りました。そもそも子どもの抱える問題に気づくことができていなければ興味を持ってもらえず、メディアでの発信だけでは一部の保護者にしか届かないのではないかと感じていたからです。
そんなときに、教育長の話をいただいたのです。教育長は、多くの子どもたちに直接かかわる公教育に携わる、まさに子どもの幸せにつながる仕事だと魅力的に感じました。
――とはいえ、いきなり教育委員会のトップになることに戸惑いはありませんでしたか。
もちろん自分が適任なのかどうか葛藤がありました。ただ、「変化」は現場を大きく変える手段になります。大きな方向性の変化はボトムアップではつくりにくいもの。民間企業で仕事をしていましたが、トップが代われば方向性は大きく変わるという感覚が私にもあります。姫路市も、私が、というよりかは、大きな変化を求められていたのではないかと感じています。
では、自分がいい変化をもたらせる人間なのかについては、どんなに考えても答えは出ません。ただ、子どものために必要な変化を促したいという気持ちは強いです。子どものためという気持ちは、教育委員会の皆さんも同じ思いだろうと思いますので、機会をいただけるのであれば、一緒に懸命に取り組みたいと思いました。
日本の教育の課題は「自己肯定感」の低さ
――GIGAスクール構想によるICT活用の推進をはじめ、日本の公教育は大きな変革期を迎えています。こうした中で、今の日本の教育について、どう感じていらっしゃいますか。
さまざまな調査でも指摘されているように、日本の子どもの自己肯定感は各国と比べて低いとされています。それが日本の教育の大きな課題の1つだと感じています。私も小学校の頃、自己肯定感が非常に低い子どもでした。あまり褒められることがなかったからではないかと感じています。

















