キーマンは、ミドルリーダー層の中堅教員
現在、全国の学校現場では、慢性的に教員が不足しています。「教員を志望する人が減っている」ことと、「休職や退職してしまう教員が増えている」ことのダブルパンチで、とても深刻な状況です。
突然、現場から教員が去ってしまうと、残された教員一人一人の負担はますます大きくなり、子どもたちに悪い影響が及びます。ましてや、若手教員ばかり辞めてしまうのであれば、学校全体の活気も失われていくことでしょう。そうならないよう、学校にはさまざまな対応が求められます。
そこでキーマンとなるのが、「ミドルさん」こと、ミドルリーダー層の中堅教員です。ここでは若手さんの悩みに、ミドルリーダーはどう寄り添えばいいのか漫画とともに紹介します。
1年目の若手さんへの寄り添い方
学校現場に限らないことですが、若手さんが困らないよう「やるべきこと」を明確にするのは大切なことです。しかし、指示さえすればいいというものではありません。
それだけでは、仕事に対する「やらされ感」が強くなってしまい、不必要なストレスを与えてしまいかねません。なぜなら、若手さんはまだ自分で仕事の優先順位を明確にしたり、軽重をつけたりすることができないからです。
若手さんに限らず、教員の多くは「引き算」よりも「足し算」の方が得意です。「ビルド&ビルド」で仕事が増えるばかりの職場になってしまえば、教員は疲弊してしまいます。この悪い慣習をどこかで断ち切るためにも、まずは若手さんに「引き算」の視点をもたせることから始めてみてはいかがでしょうか。
そのために必要となるのが、次の2点です。
●若手さんに「やるべきこと」を指示する際、ゴールイメージをもたせる(期日とともに、何をどこまで行えばやったことになるのかを伝える)。
●若手さんが「やるべきこと」だと感じていることを話してもらい、次の4つに振り分けて伝える(もしくは話し合いながら選別する)。
・期限までに必ずやらなければならないこと。
・余力があるのであれば、やればよいこと。
・無理が生じるのであれば、やらなくていいこと。
・そもそもやらなくていいこと。
こんなふうに仕事を振り分けるだけでも、若手さんは仕事がしやすくなります。
しかも、学校現場には、本来の目的を見失って形骸化してしまっている仕事もあります。そんな仕事ばかりを任された日には、すべてが「雑用」に思えてしまうことでしょう。「やらされ感」が強くなってしまえば、若手さんのモチベーションは下がります。
だからこそ、若手さんに限らず誰かに仕事を任せるときには「何のために」その仕事をするのか、その先にはどんなメリットがあるのか、目的や意図、背景などを説明することを大切にしています。そうすれば当事者意識が芽生え、少なくとも「こんなはずじゃなかった」と思うようなことが減るのではないかと思います。
一方、若手さんが授業に悩んだときは、成長するビッグチャンスです!「授業がうまくいかない」と悩むことができる若手さんは、伸びしろがある人です。向上心の強い若手さんほど、自分の授業について深く悩みます。
ミドルさんとしては、この成長のビッグチャンスを生かさない手はありません。
まずは「今度よかったら私の授業、見に来てみない?」と働きかけをしてみることをおすすめします。
授業改善への近道は、他の教師の授業を見ることです。しかし、それがわかっていても、「先輩の授業を見させてください」と若手さんが自分からお願いするのは相当の覚悟と勇気がいるものです。
また授業を改善する際に大切なのは、ねらいをシンプルにすることです。
例えば、「今日は授業の最初にねらいをはっきりと伝えてみよう」「10分間は必ず子どもの活動時間を確保しよう」といった言葉かけです。目標を一つに絞ってねらいを焦点化することで「授業の中で今何ができていて、何が足りないのか」が明確になります。
2〜3年目の若手さんへの寄り添い方
私が2〜3年目の頃の話です。当時の私は、何か失敗するたびに落ち込んでばかりで自信がなく、決して優秀とはいえない若手でした。それなのに、なぜかそんな私にわざわざアドバイスを求めてくる先輩教員がいました。
実際に先輩の授業を見に行き、「どうしたらこの授業がもっとよくなるんだろう?」「自分だったらどうしたいかな?」などと考えているうちに、だんだんと自分なりの考えが明確になっていったように思います。
そして、「先輩の授業でやっていたあの活動、自分の授業でもやってみようかな」とか、「先輩の授業に比べて、自分の授業は子どもの発言が足りないな」とか、「この部分は自分のほうがうまくできているかもしれないな」などと新たな視点が生まれ、自分の授業を客観的に見直すことができるようになったのです。
今思えば、私にアドバイスを求めてきた先輩教員は、自信をなくしている私に気づいて、次の段階へと成長させるためにあえてそうしてくれていたのだと思います。若手育成のテクニックの一つとして相談してくれたのです。
私は「自分の授業ってつまらないな」「このままでいいのかな」と思えたときこそが、教員としての本当のスタートだと考えています。
授業改善に必要な最初のスキルは「子どもの反応を冷静に受け止める」ことです。授業のよし悪しは、いつも子どもが教えてくれます。子どもたちの目の輝きや発言から察することができるようになって初めて、次のステップに進めるのです。
一方、あまりにも若手さんが成長してくれなくて、現場が困り果てているケースもあるでしょう。もしかすると若手さんへの期待値が高すぎるのかもしれません。が、若手さんは大学を出てわずか2〜3年しかたっていない新人です。ベテラン教員が思っているような器用さをもっている若手さんは多くありません。
ミドルさんとしては、「教わっていないことはできなくても仕方のないこと。勝手に期待するのが間違い」「むしろ、自分の説明や伝え方に何か問題がなかっただろうか」と謙虚に振り返る姿勢をもつことが大切です。できない原因を若手さんだけに求めるのではなく、寛容な気持ちをもって、お互い気持ちよく仕事をしていきたいものです。
「私たちの時代は」と言いたくなる気持ちをグッとこらえてください。若手さんがやってみたいと思えることにチャレンジできるようにするには、何よりも校務がスムーズに回っている必要があります。
ほんの一例ですが「若手さんがつまずきやすい職員室」の例を挙げてみます。
・学年間や教員間に溝がある職員室
・前任者からの引継ぎがない職員室
・仕事について教えてくれる人がいない職員室
・若手さんに仕事を任せる余裕がない職員室
やる気に満ちあふれた若手さんの足を引っ張らないようにするために、ミドルさんは、「教員同士の垣根をなくす」「若手に仕事を教える」「校務がうまく回るようにする」ということを意識しておきたいものです。
4〜5年目の若手さんへの寄り添い方
4年目の若手さんに対して、まず投げかけたい問いはこれです。「今回この仕事を担当するにあたって、あなたはどうしたいと思ってる?」。
私がこれまでに若手さんと関わってきた感覚では、問いかけに対して、すぐに自分の考えを言える若手さんはほとんどいません。
この問いかけの目的は、すぐに答えを出してもらうことではありません。問われたことをきっかけにして、自分に任された仕事と向き合い、自分の理想や願望についてじっくりと考えてもらうことが目的です。
「責任が重いなぁ」「失敗したらどうしよう」と考えてしまうのは、部屋に入りたい気持ちはあるのに、ドアの手前で立ちすくんでしまっているようなものです。この段階はまだ、仕事の課題や目的を自分事として捉えられていない証拠だと私は受けとめています。
自分のやりたいことや目的、やるべきことがはっきりと見えてくれば、不思議とブレずに前へ進めるようになります。まずは、若手さんの思いを引き出すことで、入り口まで一緒につき添ってあげることから始めるとよいでしょう。
若手さんの思いを引き出せたら、行事を担当するにあたっての最上位の目的を明らかにします。目的が明確になったら、それを他の先生方や子どもたちと共有するための手段を考えます。
行事に限らないことですが、初めてチーフを任されたときは、全体の見通しをもてません。もし、こまめに声かけする余裕がない場合には、やるべき仕事を見える化しておきます。
周りに仕事を振れない理由には、次の4つのパターンが挙げられます。
①「抱え込み」パターン……チームでやる発想に転換を
②「後輩不信」パターン……後輩育成の自覚をもたせる
③「遠慮がち」パターン……積極的に御用聞きをする
④「タスク管理ニガテ」パターン……仕事を振る準備を手伝う
若手さんが仕事を任されたときに陥ってしまいがちなのが①です。抱え込みが常態化すれば、疲労はたまる一方で、いずれ破綻します。そのため、若手さんには「仕事にはチームワークが大切である」という基本を理解してもらう必要があります。
また、中には「仕事を振らずに自分一人でやり遂げることによって、自分の評価を上げたい」と考える若手さんもいます。この場合は、「個人の勝手なプレーは評価されない」ことを正しく理解してもらう必要があるでしょう。
教員になって4〜5年目にもなると、かつては自分が仕事を振られる側だった若手さんも、仕事をうまく後輩に振った上で、後輩の面倒を見ていくスキルが求められるようになります。それでも仕事を振りたがらない②の若手さんには「あなたが自分一人でうまく仕事を処理できることはわかっているけど、チーフは人を信頼して仕事を振るのが役割なんだよ」と繰り返し伝えていきたいものです。
③は、周りに気を遣う若手さんほど、相手の顔色や反応が気になってしまい、自分から仕事のお願いを切り出せません。
そんなときは、ミドルさんが助け舟を出してあげたり、自分から積極的に御用聞きを申し出たりするなどして、若手さんが仕事を振りやすい雰囲気をつくることが大切です。そうしているうちに仕事を振ることにも少しずつ慣れ、「担当として仕事を振るのは自然なことなんだ」という感覚が身についてくるでしょう。
④の場合は、やるべき仕事の全体像を把握し、それを誰にどう分担していくのか、タスクを細かく切り分けられれば解決します。
そこで、まず仕事の内容をヒアリングした上で、具体的に仕事を割り振る計画を立てるよう提案します。その際、誰にどの仕事を任せるかについては、必ず意図をもって行うようアドバイスします。
最後に、本当に大切なのは、若手教員に指示を出したり、教え込んだりすることではありません。もちろん、サポートをする過程で適切に教えたり指示をしたりする場面は必要です。
しかし、最終的には若手教員が自分の力で考え、行動できるようになることが最終の目的です。若手教員の心に火を灯して「もっと学びたい」「もっと成長したい」という前向きな思いを育てることこそが、人材育成なのではないかと思います。
(注記のない写真:すべて東洋館出版社提供)