若い世代の政治参加を促す「NO YOUTH NO JAPAN」

――NO YOUTH NO JAPANは一般社団法人として組織されていますが、どんな活動をされているのでしょうか。

政治や社会について知って考え、それぞれがスタンスを持ち、その決定プロセスに思いを持って声を届ける。私たちは、そんな参加型デモクラシーが実現できるよう、若い世代の政治参加の促進を目的に活動を行っています。具体的な活動としては、政治や社会を知る入り口として、Instagramでわかりやすく、ポップに、U30が知っておくべきトピックについて発信しています。

NO YOUTH NO JAPANのInstagramでは、さまざまな社会問題をわかりやすく伝えている

選挙のほかに社会課題なども取り上げており、2022年1月現在のフォロワー数は約8.4万人。昨年の衆議院選挙のときには50万人程度の方が見てくれましたので、今は40代以上のフォロワーも少なくありません。私自身は現在、慶応義塾大学大学院経済学研究科に在籍する大学院生であり、財政社会学を専攻するとともにハフポスト日本版U30社外編集委員なども務めています。

――能條さんがNO YOUTH NO JAPANを設立したきっかけは、何だったのでしょうか。

もともと日本の若い世代の投票率の低さに関心を持ったことがきっかけです。それを実感したのが、大学時代にデンマークに留学したときでした。デンマークの若者は、政治についてよく知っているし、根本の知識が日本の若者と違うことに驚いたのです。

日本の若者はニュースもあまり見ないし、選挙自体にも関心が薄い。その状況を何とか変えていきたい。そう思って、19年7月の参議院選挙のときにInstagramにアカウントを開設して活動を始めました。当初は、選挙期間中のキャンペーンとして2週間程度で終える予定だったのですが、最終的にフォロワー数が1.5万人になったことで活動を続けていきたいと思うようになりました。そこで20年7月に一般社団法人化することにしたのです。

――現在、フォロワー数は約8.4万人。活動が拡大したきっかけはどこにあるとお考えですか。

1つはコロナ禍の影響で、若い世代がニュースをよく見るようになり、政治にも関心を持つようになったことが大きな要因だと思います。また、黒人差別への抗議デモ「ブラック・ライブズ・マター(BLM)」の拡大によって、私たちのInstagramを著名な方々がシェアしてくれたことで知ってくれる人たちが増えたことも大きいですね。

もう1つは、21年10月の衆議院選が大きく注目されたことで活動がさらに拡大することになりました。実際、どこまで私たちの活動が寄与しているかはわかりませんが、10代の投票率は上昇することになりました。過去と比べてSNSによる選挙キャンペーンが増加し、関連コンテンツも充実してきたことで、若い人に情報が届くようになっていると感じています。さらに、環境問題やジェンダー平等など、若い世代の政治的関心が高まっていることも大きいとみています。

NO YOUTH NO JAPANのメンバーと。志を同じくする仲間だ

主権者教育に必要な「パブリックマインド 」と知識、スキル

――そうした中で、能條さんは「主権者教育」を提唱されていますが、それはどのようなものなのでしょうか。

主権者教育には、必要なことが2つあります。1つは「パブリックマインド」を育むことです。自分の生きている社会は自分さえよければいいというものではない。だからこそ、社会のために何か貢献すべき。狭量な個人主義に走るのではなく、公共のことも考えていく「パブリックマインド」が重要になっていると考えています。

もう1つは、有権者として社会に関わっていくために必要な知識、スキルを身に付けることです。実際、18歳選挙権が導入されたことで、学校でも主権者教育が始まっています。熱意のある先生がいたり、プロジェクト型の授業をしたりしていて、いいなと思う一方、どこまで現実の政治が語られているのかなと。まだ、それほど広まっていないのは、教育で政治をタブー視していることも影響しているのかもしれません。しかし、政治を当たり前に話せる人を増やしていくためには、やはり知識として政治を教えていくことが大切です。そこは学校の先生だけではなく、NPOをはじめ、外部のリソースを活用することも手段の1つだと思っています。

――「パブリックマインド」は、日本の「利他」の考えにも通じるものですね。

ただ、今は少子化によって親の熱量が高まる中、子どもたちは競争的な生き方を強いられるようになっています。中学受験が過熱していることからもわかるように、どうしても自分さえよければいいと思わざるをえない状況が生まれている。それが、子どもたちの人格形成にまで影響してしまう可能性があるのです。事実、大人が提供する価値観に沿う子どもが育っていて、寄らば大樹の陰、波風を立たせないといった、より従順な性格を持つ子どもたちが増えているように見えます。

子どもたちは小さい頃から習い事などで忙しく、自分の考えを深掘りする機会が少ない。今まで大人に示された基準をクリアする生活をしてきましたから、与えられた課題の正解を見つけることに時間を費やしています。大学生も社会に関心がないわけではありません。しかし、誰かがやってくれるだろうと思っている、あるいは自分が違うと思っても提案することができないのです。それらのバランスを取るために、主権者教育の考え方が必要だと考えています。

――若い世代の投票率の低さは、これまでも指摘されてきましたが、なぜ今も上向かないのでしょうか。

それは既存のマスメディアの影響力が少なくなって、若い世代がSNSで好きな情報しか見なくなったことが大きく影響していると考えています。ただ、それだけではなく、平成に入ってから30年以上、20代の投票率はずっと低いということは、今の40代、50代もそうだったと考えると、つねに日本では若者の投票率は低いということになります。その意味では、ずっと日本は変わっていないのです。

――確かに、昔からそうでした。

私は、地元の公立中学から東京の私立進学校に進学しましたが、高校では初めて話の合う友達ができたと思う一方、中学時代は誰もが大学に行くわけではないという環境で育った中で、格差の問題を意識するようになりました。私は親にも恵まれ、たまたま勉強が好きだったから大学に入りましたが、もう少し世代がずれていたら、大学に入っていなかったかもしれないという違和感を今も強く持っています。格差のなくならない社会の中で、自分がどのように世の中にコミットしていくのか。そう考えるようになったことが、政治への関心を高めたと思っています。

ポップコーンを食べながら党首討論を見るデンマーク

――そうした中で、大学時代にデンマークに留学されたんですね。

デンマークは「世界一幸せな国」といわれています。そんな公共が保たれた高福祉国家を参考に、高い解像度で日本を見直したいと思いました。私は大学ではなく全寮制の学校に留学したのですが、多様な学生がいました。日本では、勉強ができる子だけが政治について話す印象がありますが、そこでは勉強ができる子もできない子も日本の「九九」の計算のように共通の素養として政治の話をしていることに驚いたのです。

選挙のときは、みんながポップコーンを食べながら、党首討論を見ています。ほかにもデンマークの若者は、学校で授業が面白くなければ、生徒同士で意見を出し合い、それをまとめて意見として先生に提出して改善してもらいます。陰で文句を言うだけの日本とは大違い。何か不都合があれば、変えようとする意思がみんなにあって、とても健全だと思ったのです。

デンマーク留学時代の能條さん。現在の活動に大きな影響を与えた留学だった

――そうした経験から日本の教育はどう変えていけばいいとお考えですか。

学校では、先生だけが正しい答えを知っているという位置づけですが、これからは先生がファシリテーターのような存在になっていく必要があると考えています。大人だけが正しい答えを知っていて、それを子どもたちにインプットしていくという考え方では何も変わりません。情報をインプットすることは大事ですが、最終的には、子どもたちが自身の価値観に基づいて自分の答えを見つけていくということをゴールとすべきです。そうでなければ、民主主義の担い手は育たないと思います。

――そのうえで政治の授業も必要だということですね。

今は右派、左派について説明できる学生はほとんどいない。その意味でも、民主主義の共通知識を中立的な立場で教えていくことが欠かせないのです。また、若者たちの意見を聞く場をつくっていくことも必要でしょう。それも一部の関心の高い若者たちだけのものにするのではなく、幅広い人たちに開かれた場所でなければなりません。

例えば、デンマークでは若者向けの民主主義イベントがあり、ミュージシャンが出演したり、各政党やNGO、NPOが出展したりして、学生による討論会も行われています。興味深いのは、それが自由参加ではなく、強制参加であることです。イベントでどう過ごすかは自由ですが、必ず参加しなければならない。日本でも学校だけでなく、外部と協力するなどして新たな試みをしていくことが大切だと思っています。

――能條さんのNO YOUTH NO JAPANに関心を持つ若者が多いということは、日本でも、そうした場さえあれば、若者も立ち上がる用意があると見ていいはずです。

日本では20代の若者だけでも約1260万人いますが、世代内でも階層があり、それぞれが分断されているのが実情です。しかし、きっかけさえあれば関心を持つ人たちも少なくありません。そこに私たちは微力ながら貢献していきたいと考えています。

例えば、既存のメディアでは政治のニュースを流しても、その「あらすじ」紹介がありません。それでは政治に疎い若者には非常にハードルの高いものに見えてしまいます。これまでこうした経緯があり、だから結果こうなっている。そうした「解説」をしていくと、それが政治に関心を持つきっかけになるかもしれない。今や2011年の東日本大震災を知らない20代も少なくないのです。私たちの活動も、そうしたさまざまな情報を世代間で共有していくことで少しでも前進していこうとしているのです。

また、意外に思われるかもしれませんが、今の若者はメディアリテラシーが高く、すべての情報が正しくないこともわかっているし、変な情報で自分が偏ることも怖いと感じています。そのために、私たちは政党中立の立場から、それぞれが自分の意見を持てるような情報発信を心がけているのです。

――今後、NO YOUTH NO JAPANの活動は、どう広がっていくのでしょうか。

広報的に投票行動を促しても、なかなか投票率は上がりません。そのためにも、これからはほかのセクターと連携しながら、活動を広げていきたいと考えています。私たちの活動はまだ小さいもので、はじめの一歩にすぎません。これから社会がどうなっていくかわかりませんが、私たちの一歩を次の世代にバトンタッチしていくことで、若者の政治参加を促進していきたい。今、そうした問題意識を持っています。

これから学校で主権者教育を広めていくためには、先生自身が「主権者である」と見せることも大切だと思います。政治に無関心にならないのはもちろん、子どもたちの声をどれだけ聞いているか、学校運営にどれだけコミットしているのか、社会と接点を持っているかなど、民主主義の担い手を育てるには、まずは自分たちがならないと。

しょうがない、無理だ、と思って諦めない。どうすれば社会が変わっていくのか、自分たちで何かできることを考えて、先生と子どもたちが話し合う場をつくるのもいい。校則など身近な問題をきっかけにするなど、子どもたちが意見を出し合うことで小さな社会で何かを変えていく、変えたという経験を積み重ねていくことが大切だと思います。

能條桃子(のうじょう・ももこ)
一般社団法人NO YOUTH NO JAPAN 代表理事、ハフポスト日本版U30社外編集委員
1998年生まれ。豊島岡女子学園高等学校、慶応義塾大学経済学部卒業。慶応義塾大学大学院経済学研究科修士1年。20代の投票率が80%を超えるデンマークへの留学をきっかけとして、2019年7月参議院選挙のときに政治の情報をわかりやすくまとめたInstagramメディアを開設し、2週間で1.5万人のフォロワーを集める。その後、NO YOUTH NO JAPANを一般社団法人化、「参加型デモクラシー」のある社会をつくっていくために活動中

(文:國貞文隆、写真:すべて能條氏提供)