男性20人に1人・女性500人に1人が色弱、学校でできる「困らない環境づくり」 特別なケアではなく「みんなが困らない環境」に

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日本では男性の20人に1人、女性の500人に1人が「色弱」だとされている。約20年前まで、子どもたちは学校健診の一斉検査で本人の意思にかかわらず分類され、「色の見え方が違う人がいるらしい」というあいまいな知識が広まっていた。現在、この検査は小学校で任意で行われるものになったが、色弱の人の割合が変わったわけではない。何が変化し、現在も残る問題にはどんなものがあるのか。東京慈恵会医科大学の副学長であり、カラーユニバーサルデザイン機構(以下、CUDO)の副理事長も務める岡部正隆氏に詳しく聞く。

本来は暴く必要のないもの、一斉検査なら十分な配慮を

2002年の学校保健安全法施行規則の一部改正により、色覚検査は学校健診の必須項目ではなくなった。だがその後、自身の色覚異常を知らずに成長することの不利益が指摘されるようになった。鉄道や航空関連など、先天色覚異常によって制限を設けている仕事を目指していた場合、人生の大きな方向転換を迫られるからだ。こうしたことを防ぐためにと、14年に文部科学省から規則の一部改正通達が出された。学校における色覚検査の適正な実施体制の整備などが「留意事項」として記され、16年には、学校現場に再び色覚検査が戻ってきた。

東京慈恵会医科大学の岡部正隆氏は、自身も色弱であり、CUDOの副理事長も務めている。これまでの一連の流れをどう見ているか。

岡部正隆(おかべ・まさたか)
東京慈恵会医科大学 副学長・解剖学講座教授
1993年東京慈恵会医科大学卒業。96年に医学博士を取得。97年から国立遺伝学研究所で助手を務めた後、英国留学などを経て2007年解剖学講座教授に、22年副学長に就任
(撮影:尾形文繁)

「まず『色覚異常』という呼び方は医学用語であり、私たちは日常的には『色弱』という言葉を使います。さらにこれは障害ではなく、感覚の多様性の1つであると発信し続けています。基本的に検査で暴く必要はないものだし、いずれ家族や教員が気づくことも多い。それでも学校としてやる決断をするのなら、当事者に配慮した環境を整えながらにすべきだと思います」

CUDOでは医学用語で「正常色覚」と呼ばれるものを「C型色覚」と呼ぶ。さらにC型色覚と異なる特性をP型、D型、T型と分類。いわゆる色弱の人のほとんどはP型かD型に該当するが、それらもC型色覚との違いの程度は連続的だという。便宜的に軽度、中程度、強度と分類されており、実際には無数の感覚の特性が存在するとしている。

過去には、色弱の人たちに対する差別が横行していた。当事者の男性だけでなく、保因者の女性も結婚しにくい状況があった。戦争の是非は別にして、戦時中の徴兵の際も、色弱の人は健診で「不合格」とされた。岡部氏は、学校健診という全国一斉のスクリーニングで強制的に遺伝形式を検査し、進路や結婚まで制限した社会のあり方を強く非難する。今もその爪痕は世代を超えて残っており、次のようなケースも多いという。

「例えばお子さんが色弱だとわかったとき、非常に動揺したお母さんが、涙ながらに相談に来ることがあります。このお母さんを30~40代だとしましょう。この世代はまだ学校での一斉色覚検査を経験していて、さらに前の世代の親に育てられている。でも今の学生に『色弱の人にこんな差別があった』と話すと、まったく理解できないという反応をします」

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