弱視の子も読みやすいよう開発、「UDデジタル教科書体」学校で活用が広がる訳 子どもたちの「個性や特性に合わせた選択肢」を

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年齢、性別、国籍、障害の有無などを問わず、すべての人が使いやすいことを目指すユニバーサルデザイン(以下、UD)。その概念は建築やプロダクト、情報などさまざまな分野で取り入れられており、活字においてもUDフォントが開発されている。中でも教育現場で活用が広がっているのが「UDデジタル教科書体」だ。学校教育のために作られたこのフォントの生みの親である書体デザイナーの高田裕美氏に、開発に約8年もかかったという背景や効果的に活用するためのポイントについて語ってもらった。

最初は「当事者の声」を聞かず想像で作っていた

授業が始まり、教科書を開く。そこに書かれた文章を読む。何げない行為だと思うかもしれないが、ロービジョン(弱視)やディスレクシア(読み書き障害)など、文字や文章を「読む」ことに困難を抱えている子どももいる。そういった子どもたちでも読みやすいようにと開発されたのが、「UDデジタル教科書体」だ。

書体デザイナーとしてUDデジタル教科書体を手がけた、モリサワブランドコミュニケーション部広報宣伝課の高田裕美氏は、その背景ときっかけをこう語る。

UDデジタル教科書体の生みの親である高田裕美氏

「始まりは、鉄道会社からの依頼でした。電車内のモニター用に、お年寄りでも遠くからでも駅名を見間違えないようなUDフォントを作ってほしいという依頼だったのですが、『デザイナーの感覚だけでUDと称していいのだろうか』と思いました。そこで、ロービジョン研究の第一人者である慶応大学の中野泰志教授に相談させていただいたのです」

しかし、作ったフォントを見せたところ、中野氏はいいとも悪いとも言わず、「当事者の声は聞きましたか」と高田氏に尋ねた。

「その時、肝心の当事者の声を聞いていなかったことに気づきました。『お年寄りはこう見えているだろう』という想像で作っていたんです。それからは、中野教授のご紹介で、視覚障害のあるお子さんが通う特別支援学校や盲導犬の訓練所、触る絵本がある図書館など、さまざまな施設を訪ねて話を聞きました」

「これは学校では使えない」と言われた理由

その中で、ロービジョンの子が通う特別支援学校の教員やボランティアの人たちに「これは学校では使えませんね」と指摘されたという。

教科書に使われる一般的な教科書体は楷書がベースなので、筆の運びが強調されており線に強弱がある。ロービジョンの子どもにはその線の細い部分が見えにくいので、黒みが集まる部分だけが強調されてしまうという。一方、ゴシック体は教科書体や明朝体に比べて線の太さが均一で読みやすいが、文字の形状が手書き字形の教科書体と異なるので、「しんにょう」の形に戸惑ったり、「山」の画数が違って見えたりして混乱するそうだ。

「そのため、特別支援学校の先生たちは、学習指導要領に沿った形にゴシック体を手書きで修正し、文字や運筆を教えていました。私が進めていたUDフォントはゴシック体だったため、学校では使えないというわけです」

2008年に教科書バリアフリー法が施行され、全国で拡大教科書が配布されるようになったが、高田氏がUDフォントの開発を模索し始めた07年当時は高価な拡大教科書を購入する必要があった。そのため、ボランティアの人たちが、ロービジョンの子どもが読みやすく、かつ画数や運筆が覚えられるよう、手書きで拡大教科書を作っていたという。それでも見えにくいようで、子どもたちは教材に顔を近づけて勉強していた。

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