男性20人に1人・女性500人に1人が色弱、学校でできる「困らない環境づくり」 特別なケアではなく「みんなが困らない環境」に
こうした感覚のギャップは、30年ほどのスパンで変わっているようだと岡部氏は続ける。年代が上がるほど、差別意識は根強いものがある。
「詳しく聞いてみると、色弱の子のお母さんのお父さん、つまり祖父が、やはり色弱であることがわかりました。60~70代の彼は、孫の特性を娘に告げられて初めて、自身の色弱を打ち明けたというのですね。この例からは2つのことがわかります」
1つは、この祖父世代の人にとって、色弱はそこまで隠さなければいけないものだったということ。そしてもう1つは、それが実の娘にも気づかれていなかったということだ。色弱の人が困るのは「C型色覚」との見え方の差にぶつかるときだけで、それ以外に障害があるわけではない。多くの人が困り事を自分なりの工夫で乗り切っており、周囲には気づかせないことも多いそうだ。
「歴史的にはひどい差別を受けてきましたが、要するに、本来は色弱ってその程度のものなんです」と岡部氏は続けた。
色のことでみんなが困らない環境をつくる「CUD」
一律に暴く必要はないが、教室に1人はいる確率が高い色弱の子どもには、教員はどう対応すればいいのだろうか。岡部氏はこう語る。
「厳密に言えば、彼らが困る可能性があるのはどんなことか、教員は理解しておく必要があると思います。ただし、みんなが困らない環境をあらかじめつくっておけば、特別な配慮は要らなくなります」
色のことでみんなが困らない環境をつくるのが、CUD(カラーユニバーサルデザイン)だ。CUDを実現するには、まず色弱の人がどんな場面で困るのかを知ることが欠かせない。
「例えば『黒板』という名の緑色の背景に、カラーチョークで文字を書かれること。ピンクと青、黄緑と黄色などが同じような色に見えて、『ピンクの文字を読んで』などと言われてもどの文字を読んでいいかわからず、子どもは困ってしまいます」
この問題にはしかし、すでにCUDの取り組みが進行している。国内トップシェアの日本理化学工業が、どの色覚タイプでも見分けやすいカラーチョークを開発しており、多くの学校で導入されている。また近年は緑色ではなく、グレーの黒板も増えている。
1人1台端末の導入によるメリットもある。電子教科書は個々の端末で色を調整することができるからだ。教科書のメーカーなどもニーズに対応して理解が進み、CUDに積極的に取り組む会社が多いという。
「ただ、校長先生の理解がなかったり、養護教諭だけに任されていたりと、学校全体としてはまだ意識が薄い印象もあります。学校の先生は忙しすぎるのでしょうね。色弱の人は見た目でわかるものではないし、本人にとってもカミングアウトするメリットがないので、当事者が配慮を求めないという特徴があります。だからこそ、環境として整備してしまうことがいちばん手っ取り早い解決法だと思うのです」
色の見え方が違うことは、言葉でのコミュニケーションにも影響を及ぼす。授業中の指示や説明は、色だけに頼るのではなく、形や位置などで伝えることが望ましい。
「私たちは自分たちの見ている色を表す適切な色の名前がないので、色の名前を間違えやすいのです。色の名前を使ったやり取りでは、いちかばちかで当てにいって外してしまい、『おかしいよ』と言われることが私もよくありました」
こうした子ども同士の会話で、色弱の子どもが自信をなくしてしまうケースも多いという。図工の時間に選ぶ色を「変だよ」と言われることなどは顕著な例だが、教員からは「自由な色で好きなように塗っていい」とクラス全体に声をかけるなどの配慮があるといい。
チョークや黒板、ゼッケンの色…アプリも有効活用して
そのほか具体的な配慮として、テストの採点の際に使う赤ペン選びなども重要だ。P型色覚の人はその特性から、鉛筆で書いた黒い線と赤ボールペンの線を見分けるのが難しいが、朱色のペンなら黒との違いがわかりやすい。色弱の子どもがいるから朱色のペンを使うのではなく、つねに朱色のペンを使うようにすれば、それが岡部氏の言う「特別な配慮が要らない環境」になるというわけだ。