不合格が判明した瞬間、負の感情はシャットアウト
【不合格を知ったその瞬間の心の動きとは】
震える指先で合格発表のページの更新ボタンをタップ、画面上に並んだ受験番号。いくら見直してもわが子の受験番号がないと悟ったとき、強いショックに襲われることでしょう。このショックの正体は「わが子が受験に落ちた」という厳然たる事実に直面した驚きと、「わが子の努力が報われてほしい」という願いが裏切られたという失望感です。
不合格を知ってショックを感じるのは人間の感情として正常な反応です。しかしながら、もし合格発表をお子さんと一緒に確認するのであれば、そのショックをお子さんに感じ取られないようにしたいものです。不合格で最もショックを受けているのはお子さんのはずなのに、隣でショックを受けている親を見てしまったら、さらに落ち込んでしまうからです。
【不合格になった子にとるべき対応】
私は、生徒が不合格の報告をしに塾に来たら空き教室に連れていき、まずは報告に来てくれたことへの感謝を伝えていました。そして、これまでの受験勉強への取り組みを労います。その後は、こちらからあれこれ話すよりも、生徒の様子をうかがい、気持ちを受け止めて、聞き役に徹します。一通り生徒の話を聞いて、気持ちが落ち着いてきたら「これからどうするか」を一緒に考えるようにしてきました。
中学受験が人生の一大イベントであることは間違いありません。でも、12歳はまだまだ人生の入り口です。中学受験の結果は人生を決定づけるほどではありません。とはいえ、やはりショックを隠せない、親は気丈に振る舞っていてもわが子は落ち込む一方、ということもあるでしょう。そんなときは、通っていた塾やこれまで見てもらっていた家庭教師に頼ることです。先生たちは教え子の不合格に向き合ってきた経験があります。先生を交えた三者面談でお子さんの気持ちを前向きにしてもらいましょう。
志望校に受からなかった子の進路選択の落とし穴
【第4志望以下の学校に進学するケース】
第1志望、第2志望に不合格でも、第3志望に合格していれば、その学校に進学するでしょう。しかし、第4志望以下の学校しか合格をもらえなかった場合、進学するかどうか迷う可能性が出てきます。
もちろん受験プランを組む時点で、本当に進学したい学校と、模試代わりに受験するだけの学校は線引きしているはずです。しかし、受験前は進学するつもりがなかったとしても、その学校が唯一合格をくれた学校となると、にわかに魅力的に思えてくることも珍しくありません。
「今まで何年も受験勉強をがんばって、お金も時間も費やしてきたのに、地元の公立中に進学してまたすぐ高校受験勉強をしなければいけないのはもったいない」という気持ちにもなりがちです。
そして、改めて合格校のホームページを見てみたり、パンフレットを眺めたりします。そうするうちに、ほかの学校が無慈悲にも不合格を突きつけてきた中、わが子を認めて合格を出してくれた学校に好感を抱くようになり、当初のプランを変更して進学を決意するケースが少なくありません。
結果、学校生活に慣れると「この学校こそが自分に合った学校だった」と前向きに通学するお子さんが多いものです。もしそうであれば、親も気持ちを切り替えてお子さんの中学校生活を応援してもらえたらと思います。意外と親の方が、志望校不合格のショックをいつまでも引きずりがちですからね。
【想定外の中高一貫校に進学する場合のリスクとは】
一方で、想定外の中高一貫校に進学した結果やはり別の学校が気になり始め、中学3年生で高校受験を決めるお子さんもいます。この場合、高校受験の合否を左右する内申点が公立中と異なる指標で算出されたり、一部の私立高校の受験で採用されている併願優遇制度を利用できなかったりなどの不利な状況に陥る可能性があります。
同級生が付属高校への内部進学を希望する中、1人だけ高校受験勉強に取り組むという孤独な戦いにもなります。想定外の中高一貫校への入学を考える際は、高校3年まで通い続けるつもりかどうか、家族で検討しましょう。
中学受験経験者が公立中に進学する際の3つの注意点
【その1:「英語」の授業に油断しない】
国立・私立の中高一貫校だけが、人生を有利にする進路ではありません。中学受験で力を発揮できる子がいるように、高校受験で力を発揮できる子もいるのです。まして中学受験経験者は、中学受験勉強をしてこなかった生徒に比べて受験勉強に慣れているし、知識も豊富な傾向にあります。中学受験経験者は高校受験において、スタート前からすでに優位に立っているのです。
とはいえ、中学受験経験者が地元の公立中に進学する際には注意すべき点もあります。今回は注意点を3つ紹介します。
1つ目は英語学習です。中学受験経験者は、いざ中学校の授業や塾の授業が始まると、その内容の易しさから油断しがちです。最初は「A,B,C……」のアルファベットの書き方から学ぶので、小学校の授業でしか英語に触れてこなかった人にも易しく感じられます。
ところが「一般動詞」の単元に入り、覚えるべき単語の数が増え、「三単現のs」の単元で文法が複雑化してくるあたりで、英語の点数を取れない人が現れ始めます。中学受験経験者であれば、少しくらい英語の授業のレベルが上がっても、小学生当時の学習習慣がそれなりに残っていれば無理なく理解できるでしょう。しかし、中学受験終了とともに勉強から解放され、せっかく身につけた学習習慣を失ってしまう子どもも多いのです。そうなると徐々に英語がわからなくなり、次いで数学が解けなくなり、国語の古文・漢文も苦手になっていきます。
【その2:「通知表」の成績をないがしろにしない】
中学受験経験者が地元の公立中に進学して注意すべきことの2つ目は、通知表の成績です。高校受験では、公立高校を受験する際も、私立高校の併願優遇の条件を満たすにも、通知表の成績を基にした内申点がかかわってきます。
内申点は「国語・数学・英語・理科・社会」の主要5科目だけでなく「美術・音楽・技術家庭・保健体育」の技能4科目の成績や提出物なども評価対象であり、各科目の担当教員が判断します。試験の点数だけで合否が決まる入試を目指してきた中学受験経験者にとっては、試験以外のすべてのことにも手を抜かずに取り組む必要があり、窮屈に感じるかもしれません。
【その3:安易に部活を選ばない】
中学受験経験者が地元の公立中に進学して注意すべきことの3つ目は、部活動です。中学校はどの部活を選択するかによって生活スタイルが決まると言っても過言ではありません。一般的に、公立は私立に比べてハードな部活動が多い傾向にあります。活動が盛んな運動部に入ると、朝早くから練習があり、土日も遠征試合があるなど、受験勉強のために塾に通う余裕がなくなります。文化部でも例えば吹奏楽部に入ると、休めないうえに中3の夏を過ぎても引退にならず、受験勉強との両立が困難になります。
小学校時代に中学受験勉強に専念するあまり、十分な体力をつけられていないままハードな部活を選択すると、中学に進学したとたんに練習ざんまいの日々で疲弊することになります。それはそれで有意義な中学校生活ですが、安易に部活を選んで後悔することのないよう、慎重に部活を選ぶことをおすすめします。
中学受験勉強の経験は、高校受験、大学受験、そして社会人になってからも役立ちます。どんな進路を選ぶとしても、中学受験勉強をしたこと自体すでに価値があるのです。わが子の人生をお子さん自身が切り拓いていけるよう、保護者は長期的な視野でサポートしてもらえたらと思います。
(注記のない写真:ふじよ / PIXTA)