9年連続人口増、明石市の泉房穂市長「子ども予算3倍必要」と考える理由 「教育権限の移譲」でいじめや不登校も減らせる

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9年連続で人口を増やし、2020年の国勢調査では人口30万人を突破した兵庫県明石市。とくに子育て層が増加しており、18年には出生率が1.7と政府目標1.8に近づいた。中核市人口増加率1位(※)、「全国戻りたい街ランキング2021」1位(ウェイブダッシュ調べ)、「SUUMO住みたい街ランキング2022 住みたい自治体ランキング<関西版>」6位(リクルート調べ)と、人気の上昇が続く。「やさしい社会を明石から」というスローガンの下、独自に「こどもを核としたまちづくり」に取り組む明石市市長の泉房穂氏に、子育て施策や教育をテーマに話を聞いた。
※ 2020年の国勢調査(速報値)と2015年の国勢調査を比較

昔から変わらぬ日本、子どもに冷たい社会に未来はない

――明石市では子育て支援をはじめ、障害者や無戸籍者の支援、犯罪者の更生支援、犯罪被害者が受け取る賠償金の立て替えなど、いわゆる社会的弱者に寄り添う取り組みを強化しています。泉市長が「やさしい社会」を目指す背景には何があるのでしょうか。

明石市市長の泉房穂氏

自分の生まれ育ちが原点です。先祖代々漁師で家は貧しく、弟は身体障害者で世間から向けられる目は本当に冷たかった。だから、困ったときにお互い助け合い、支え合えるような社会をつくりたいと、小学生の頃からずっと思っていました。その気持ちは今も変わっておらず、綿々と取り組んでいます。

――とくに子育て支援については、所得制限なしで「医療費・給食費・保育料・公共施設・おむつ」という5つの無料化を独自に実施しています。

子どもは自分の力だけで生きていけません。しかし親にも事情があって、全力で子育てができないこともあります。だから、社会のみんなで子育てを応援してしかるべきだと考えており、「こどもを核としたまちづくり」をしているのです。

子どもは「未来」です。私は40年ほど前に大学の教育学部で教育哲学を学び、日本という国は子どもに対してあまりにも冷たいとレポートを書きましたが、残念ながら今もこの社会は当時からまったく変わっていません。子どもを応援しない社会に未来はありません。

国がやらないなら、せめてふるさとの明石市を、子どもを応援する街にしようと市長を志しました。ずいぶん時間がかかってしまいましたが、やっと思いを実現できる立場になれました。

18歳までの医療費、中学生の給食費(左上)、第2子以降の保育料(右上)、親子交流スペース「ハレハレ」(左下)など公共施設の利用料、満1歳までのおむつ(右下)が無料。所得制限はない

子どもに対する私の思いには、2つのポイントがあります。1つ目は、子どもは本人が主人公であるということ。いまだに子どもを親の持ち物であると捉える日本社会は国際的に見ても大変珍しく、この発想をすぐにでも転換すべきだと思っています。

2つ目は、「法は家庭に入らず」の発想は間違っているということ。今は昔のように大家族や村社会のようなセーフティーネットはありません。社会全体で、つまり政治や行政が家族問題に介入し、しっかり子どもに支援の手を差し伸べなければいけない時代です。それなのに、いまだに日本は家族のことは家族でやってくださいというスタンスです。

こうした観点から明石市では、2019年に関西の中核市では初となる児童相談所を独自につくり、児童虐待防止などにも力を入れています。

日本の子ども支援に足りない「発想・カネ・ヒト」の3要素

――泉市長は、「明石市が行う全国初の施策はグローバルスタンダード」だとおっしゃっています。世界各国と比べ、日本の子ども支援や教育支援はとくにどのような点で遅れていると感じていますか。

論点を絞ると、「発想・カネ・ヒト」の3つ。まず1つ目に、子どもを応援することが未来をつくるという「発想」が日本にはありません。子どもにやさしいまちづくりをすれば地域経済も回り、税収が増え、それを財源として市民サービスも向上し、子どもから高齢者まで誰にとっても住みやすい街になります。現に明石市は主要税収入が8年で32億円増加しました。こうした発想の転換や理念・哲学の浸透が日本は不十分です。

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