台湾の先住民族を描いた映画「潜行一千里 ILHA FORMOSA」から考えたい、世界の複雑さに対して謙虚になること

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以上のような感想を関係者に伝えたところ、「自分たちの認識不足をつまびらかにして次の製作につなげるのが空族の良さなのだ」と教えてくれた。

筆者もこれまで台湾について執筆してきた中で勉強不足のために多くの人を「踏んで」きたし、失礼も働いた。たくさん叱られたり自分を情けなくなく思ったりして、自分が書くことの「暴力性」を自覚した。そのなかで得たことがあるとすれば世界の複雑さに対して謙虚になること、それに尽きるが、本作を観てそうした謙虚さは感じられず、だからこうして書いている。

それでも本作は観に行ってほしい

本稿も書くかどうか迷った。「台湾」について書いたり作品をつくったりしたら、筆者のような面倒な「台湾関係者」が言いがかりを付けてくるから、台湾には触れないで置こうという「敏感」な位置に台湾がおかれることを怖れたのである。

筆者はそうではないと願っている。台湾に少しでも愛情を持ったなら、あなたも台湾をとりまく世界を構成する「仲間」なのだ。台湾はあなたが感じているとおり、とても複雑で豊かで魅力的な存在である。だから作品をつくる、作品を発表する、沢山のひとたちに情報を届けるときには責任が伴うということを、本稿では伝えたい。

本作のなかの主な舞台のひとつになっている花蓮の光復郷は、7月の台風で川上にできた自然のせき止め湖が9月の台風豪雨であふれだし、下流が洪水で大きな被害が出た。映画に出てくるタパロン部落とサド部落は河川から少し離れている。先日、被害の中心地となった住宅被災地の範囲のなかには入っていないかもしれないが影響は大きいはずだ。

自然のせき止め湖は標高1500メートルの山脈のなかにあり、今後の台風や雨によってまたあふれ出すリスクも高く、根本的な対策はまだまだ先が見えない。被災地の復旧作業はまだ緒についたばかりである。「潜行記」は貴重な映像でそこから遠い人々の好奇心を刺激するかもしれないが、そこには「いま」を必死に生きる現地の人びとがいる。この映画をきっかけに日本でも注目されれば、住民の皆さんも喜ばれるだろう。音も映像も、台湾のグルーヴをすごくとらえていると思う。

本稿を読んだらぜひとも実際に本作を観に行っていただければ嬉しい。ここで提示した問題を踏まえて鑑賞することは、結果的に台湾への理解をより深めることにつながると思う。そして、本作が単に「探検記」のように消費されるのではなく、「次作」にきちんとした形で生かされることを心より願っている。

※本稿を起草するにあたり、台湾近現代史研究者の駒込武さんとの議論から示唆をえました。駒込さんの翻訳による『台湾、あるいは孤立無援の島の思想――民主主義とナショナリズムのディレンマを越えて』(呉叡人著、みすず書房)では、表層的な「日台友好」ムードのもとで日本人と台湾人のあいだで植民地主義的な関係が再生産されていることを鋭く告発しています。ぜひお読みください。
栖来 ひかり 文筆家

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すみき ひかり / Sumiki Hikari

台湾在住の文筆家。1976年生まれ、山口県出身。京都市立芸術大学美術学部卒。2006年より台湾在住。台湾に暮らす日日旅の如く新鮮なまなざしを持って、失われていく風景や忘れられた記憶を見つめ、掘り起こし、重層的な台湾の魅力を伝える。著書に『台湾と山口をつなぐ旅』(2017年、西日本出版社)、『時をかける台湾Y字路~記憶のワンダーランドへようこそ』(2019年、図書出版ヘウレーカ)。個人ブログ『台北歳時記』:https://taipeimonogatari.blogspot.com/

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