朝ドラ「ばけばけ」小泉八雲は凶悪殺人事件を追う記者だった。一時は路上生活も、抜け出した先で転機
原稿の寄稿を続けているうちに、ハーンは『インクワイヤラー』紙に見習い記者として迎え入れられる。
これまでことごとく仕事がうまくいかなかったハーンにとって、それがいかに特別な体験だったかということは言うまでもないだろう。
そして1874年の初め、24歳のときに『インクワイヤラー』紙に正社員として採用されることになった。
凶悪殺人事件に迫った記事が大反響に
11月に凶悪殺人事件がシンシナティで発生すると、ハーンは取材を志願。コカリルに認められると、現場で取材を重ねている。
殺されたのは皮革製作所の労働者で、関係のあった娘の父親や家族に殺害されたようだ。この事件が大きな話題となったのは、証拠隠滅を図った犯人たちが、焼却炉の中で被害者を焼いたためである。
各紙のトップ記者と争うことになったハーンは、凶悪事件の詳細をイラストで解説しながら、「焼却炉の高熱の中で飛び散っていた。その上半分はぶくぶく煮沸する脳髄の蒸気の圧力でもって吹き飛ばされたかのごとく思われた」というような、臨場感あふれる記事で、事件の凄惨さを綴っている。
その結果、掲載紙は即日完売し、増刷の希望も相次いだ。各新聞がこぞって記事にするなかで、ハーンの記事が掲載された『インクワイヤラー』紙が、最も多くの部数を売り上げることになった。この記事の成功から、ハーンの給料は、週10ドルから25ドルに一気にはね上がったという。
朝ドラ「ばけばけ」では、ヘブンが夜な夜な原稿の執筆にいそしむ様子が描写されている。実際のハーンにとっても、ペンこそが己の道を切り拓く唯一の武器だった。
その後もジャーナリストとして、刺激的な事件を追い続けたハーン。まさか自分が日本に渡り、怪談話をまとめて文学史に名を刻むことになろうとは、夢にも思わなかったことだろう。
【参考文献】
E・スティーヴンスン著(遠田勝訳)『評伝ラフカディオ・ハーン』(恒文社)
遠田勝著「書簡が語る八雲の生涯」『無限大 №88』(日本アイ・ビー・エム)
小泉八雲著、池田雅之編『小泉八雲コレクション さまよえる魂のうた』(ちくま文庫)
小泉節子著、小泉八雲記念館監修『思ひ出の記』(ハーベスト出版)
小泉凡著『セツと八雲』(朝日新書)
NHK出版編『ドラマ人物伝 小泉八雲とセツ:「怪談」が結んだ運命のふたり』(NHK出版)
工藤美代子著『小泉八雲 漂泊の作家ラフカディオ・ハーンの生涯』(毎日新聞出版)
櫻庭由紀子著『ラフカディオハーンが愛した妻 小泉セツの生涯』(内外出版社)
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