「1ドル160円で止まるのか?」サナエノミクスの正否を見極める"たった1つの視点" 「電気代補助」より「子育て支援」が効くワケ

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必要なモノを作る力が減り、世界が求めるモノを生み出す力が弱まっている以上、短期的な為替対策や補助金では、この構造を根本から変えることはできない。

円安を解決するための「投資」とは

円安が進む中で、外貨建て資産を持つことは、個人にとっては合理的な防衛策だ。物価高や円安リスクに備えるという点では、ごく自然な判断でもある。

しかし、日本全体で見ると、そこには無視できない“副作用”がある。外貨資産を買うという行為は、裏側で必ず円を売ってドルを買う動きを伴うからだ。

書籍の中でも次のように書いた。

日本人が年間15兆円の預金をドルに換え、海外投資をおこなっているとしよう。為替レートが1ドル=150円なら、1000億ドル分の外国資産を購入できる。ところが、その裏側で、ドルを購入するための15兆円は海外に流れる。
外国人がその円を使って日本製品を買えば問題ないのだが、日本製品がなかなか選ばれないのは、すでに話したとおりだ。現実には、そのお金は日本の資産に向かう。株式や債券だけではなく、不動産も含まれる。
北海道のリゾート地や都心のマンションが外国人投資家に買われている。2023年から2024年にかけて、東京都心の新築マンション価格は29%も上昇した。その影響で、日本人の住宅購入のハードルが上がっている。
海外資産を買う代わりに、私たちは日本の資産を売り、そこには自国の「土地」と「住まい」が含まれている。全体として見れば、海外から配当を受け取る一方で、国内では外国人に家賃を支払うような状態だ。
(書籍『お金の不安という幻想』より)

苦しい生活を短期的に解決するためには、電気代やガス代の補助は有効だし、個人的な解決においては、外貨投資もある程度は合理的だ。

お金の不安という幻想 一生働く時代で希望をつかむ8つの視点
『お金の不安という幻想 一生働く時代で希望をつかむ8つの視点』(朝日新聞出版)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

しかし、長期的な解決のためには、「この国が何を生み出せるか」という力が重要になる。その力が弱っている限り、どれだけ財政政策や金融政策をいじっても、円安は根本から解消されない。

円安を本当に止めるには、国内で価値を生み出せる社会を取り戻すこと。そのためには、子どもを育てる家庭を支え、未来の担い手を増やすという視点も大切だろう。

子育て支援は「子育て世代のため」ではなく、日本の生産力を守り、円の価値を支えるための、もっとも長期で確実な「投資」だ。

サナエノミクスがただの“バラマキ政策”にならないためには、“人を育て、人が働ける社会”を整えられるかどうか。そこに、日本の未来と円の未来がかかっている。

田内 学 お金の向こう研究所代表・社会的金融教育家

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たうち・まなぶ / Manabu Tauchi

お金の向こう研究所代表・社会的金融教育家。2003年ゴールドマン・サックス証券入社。日本国債、円金利デリバティブなどの取引に従事。19年に退職後、執筆活動を始める。

著書に「読者が選ぶビジネス書グランプリ2024」総合グランプリとリベラルアーツ部門賞をダブル受賞した『きみのお金は誰のため』のほか、『お金のむこうに人がいる』、高校の社会科教科書『公共』(共著)などがある。

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