iPS細胞を使った再生医療、今後どうなるのか 初めて臨床研究を行った高橋政代博士に聞く
ただ、私が想定している流れでは、ここでもう治験の準備に入らないと遅かったのですが、J-TECにそれをお願いするのは無理があった。一方、大企業もシンポジウムなどにはいっぱい来ますが、ちょっと離れて見ていて、全然参入してくれない。それで、これはもう自分で会社を作るしかないと思いました。ちょうど理研ベンチャー支援制度という後押しもありました。
そこで社長を探そうということになり、現在のヘリオスの鍵本忠尚社長が眼科手術補助剤をヨーロッパで上市したと報告に来た際、「これちょっと今度やらない?」と聞いたんですよ。そうしたら、「いいですよ」と即答でした。「この人意味がわかっているのかなあ」と少し不安になりましたが(笑)。
鍵本社長は眼科医療も知っていましたし、別の共同研究も行っていました。社長を打診する少し前、日本眼科学会のシンポジウムを私がオーガナイズしたときに、無理やり産学連携のテーマにして、どんなことをしゃべるのかと思って、鍵本社長を呼んだんですよ。そうしたらやっぱりいいことを言ったので、こういう人がいいなあと思っていました。
他家細胞の浮遊液で製品化へ
――臨床研究は細胞シート、治験は細胞の浮遊液(懸濁液)という異なる形になりますが、それぞれの特徴は?
科学的にはシートが最高の治療ですが、手術はシートのほうがリスクが高い。浮遊液だと細胞が生着しづらいというのはありますが、注射だけでできるので、手術リスクが非常に小さい。一長一短です。軽い患者にはおそらく懸濁液のほうがいいでしょう。重症の人には、生着もよく機能もよい、シートが適していると思います。
また、患者自身の細胞を使う「自家」のシートは科学的には最高の治療なのですが、とにかくお金がかかります。1例目は遺伝子の検査に何千万円もかかりましたので、普通の治療にはなりません。ですので、製品化・販売を目指す治験は、他人の細胞を使う「他家」の浮遊液で行うことになると思います。シートの場合はまだ手作りですし、どういう大きさがいいか、どういうデバイスでどういう手術法がいいかは決まっておらず、治験にはまだ早いので、臨床研究という形を取ります。
――他人の細胞を使う他家移植はコストを下げられますが、免疫の拒絶反応が起きてしまいませんか。
4~5年前から、治験は他家移植が適していると考えていたので、網膜色素上皮細胞の他家移植の場合に、どれくらい拒絶反応が起こるかを3年ほど前から研究してきました。それで見ますと、HLA(ヒト白血球抗原)の型を合わせると、網膜色素上皮細胞自体が免疫を抑制するんですよ。よすぎる細胞でしょ(笑)。ですので、おそらく免疫抑制剤はほとんど使わずにいけると思います。本当にまったくなしでよいかは、今検討しているところです。