日本郵政、初値上々も成長戦略は「視界不良」 市場はひとまず高評価だが、前途は険しい

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また、グループの稼ぎ頭であるゆうちょ銀の時価総額は、約7.5兆円。かんぽ生命は約2兆円。だが、親会社の日本郵政の時価総額は約7.9兆円で、2社の合計より少ない。これはマーケットが金融2社を除く日本郵政に厳しい評価を与えている証左だ。この構図を打開するには日本郵便の不動産、国際物流事業の収益化が不可欠だが、後者はなかなか難しい。

“親孝行”の金融2社も成長のハードルは高い。ゆうちょ銀の長門正貢社長は「経営の2本柱を磨く」と意気込む。有価証券運用における国際分散投資の加速と郵便局網を生かした地方営業の強化だ。

しかし、今期の経常利益は前期比2割減の見通し。主因は運用の過半を占める日本国債の利回り低下で、国際分散投資の成果もすぐは出ない。

親子間の微妙な関係をどうするか?

郵便局網は、武器であると同時に、コストも重い。ゆうちょ銀は窓口業務手数料など約6000億円強を、郵便局を抱える日本郵便に対して支払っている。ゆうちょ銀がどこまでコスト削減を実現できるかは不透明である。

かんぽ生命もほぼ同じ構図だ。保有契約減少が続く中、簡易・小口で郵便局を軸とした事業モデルに磨きをかけ、成長を図る。が、完全民営化への道筋が不透明な状況では、商品設計や新規業務の開始など、経営のフリーハンドをなかなか得られない。

政府による日本郵政グループの株式売却は、あと2〜3回ある見通し。確固とした成長シナリオを描き、親子間の微妙な関係を修正できるか。日本郵政に課されたハードルは決して低くない。

「週刊東洋経済」2015年11月14日号<9日発売>「核心リポート03」を転載)

福井 純 東洋経済 記者

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ふくい じゅん / Jun Fukui

「会社四季報オンライン」編集部長。『週刊東洋経済』編集部、『会社四季報プロ500』『株式ウイークリー』『オール投資』編集長、「東洋経済オンライン」編集部長、証券部長を経て現職。国際テクニカルアナリスト連盟認定テクニカルアナリスト(CFTe®)、日本テクニカルアナリスト協会理事

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