「偶然ではなく人を狙って襲っている?」 死者12人《クマ被害》山で起きている「残酷な現実」 こんなにも被害が出てしまった"根本理由"

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横山教授は、10年前は年間4000頭も駆除して大丈夫かという懸念があったが、今や7000頭以上駆除しても数が減らないと述べ、「出てくる個体を駆除するだけでは、個体数の管理が追いつかないで、後手に回っている」と語る。

そのうえで、数年前から集落周辺で計画的に捕獲を強化していれば、「現在のような深刻な状況にはならなかっただろう」と振り返る。

横山教授は、「兵庫県や岐阜県で毎年15%ほど増えることがわかっているため、東北地方はそれ以上かもしれない」と推測する。例えば秋田県でクマの推定母数が5000頭としても1年間で750頭増える。

しかし、「一昨年度同県で2000頭以上捕獲しても減らなかったということは、元の数字の5000頭では計算が合わない。8000頭ぐらいいて、毎年1200頭ぐらい増えていると考えるべきではないか」と分析する。

横山教授は、「今は完全に人間が負けている状況なので、クマは増え続ける。人間がしっかり対処しない限り、負け続ける」と警鐘を鳴らす。そのうえで、「いったん、数を減らすことをしない限り、こうしたことが2年後にも起きてしまう」と語る。

個体管理強化へ舵を切る環境省

環境省はクマによる人身被害が相次いだことで、昨年4月、集中的かつ広域的にクマの個体数や分布域の減少を図る「指定管理鳥獣」に指定した。保護重視からの転換である。

また、今年9月からクマが市街地に現れた際、市町村の判断でハンターが猟銃を発砲できる「緊急銃猟」を導入した。10月中旬に宮城県仙台市で初めて実施された。

さらに同省は10月17日、大臣談話の中で「クマの捕獲を含めた個体数管理を一層強化することにより、痛ましい人身被害の防止に取り組む」と明言した。

クマは広い行動圏を持ち、食物連鎖の上位に立つアンブレラ種と呼ばれることがある。アンブレラ種とは、その保護が生態系全体の多くの生物を守る重要な種を指す。横山教授も、クマが森にいることは重要だと語る。

しかし、本来、低密度で棲息するクマが増えすぎることによって、生態系に悪影響を及ぼす恐れもある。森の中で、争いに敗れたクマ、特にメスが人里に出没するという。

横山教授は、「来年の春からは、出没がなくても捕獲を強化しなければ、個体数を減らすことはできない」とし、「まずは緊急的に数を減らし、そのうえで、クマを含む野生動物の個体数管理と被害対策を両輪で進めていく必要がある」と語った。

クマは猛獣で人に被害を及ぼす反面、「くまモン」のようにキャラクターとしても親しまれている。動物愛護の観点から殺処分には反対する声も根強い。しかし、人身被害や農業被害を受けている人々の苦難を考えれば、駆除はやむをえない。

科学的なデータに基づいた個体数管理を通じ、適正な個体数にすることで、長期的にはクマと人の共存が実現することが期待される。

伊藤 辰雄 ジャーナリスト

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いとう たつお / Tatsuo Ito

大学卒業後、ロイター通信社、ウォール・ストリート・ジャーナルなどで記者として、経済・金融政策、金融市場を中心に30年以上に渡り取材。現在は、フリーランス・ライターとして環境分野を中心に取材執筆するほか、会社四季報で食品関係の企業を担当。2024年3月上智大学大学院・地球環境学研究科修了(環境学修士)

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