サナエノミクス「責任ある積極財政」のワナ 成否のカギを握る企業への"賃上げ圧力"

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マクロ経済学には、三面等価の原則というものがあります。これは、一国の経済において、国内総生産(GDP)は「生産」「分配」「支出」の3つの側面から見ると、常に同じ値になるという原則です。

積極財政派は、これに無理に因果関係を求め、支出を増やせば、他は自動的に増えて、経済は成長すると主張します。しかし、ここに勘違いがあります。三面等価の原則では、三面が同じように増えないとGDPは増えません。よって、「分配」が増えないと、「支出」を増やしても、GDPは成長しないのです。

高市首相が責任ある積極財政を実施するにあたり、まず財政出動の中身を重視すべきです。生産的政府支出を中心に日本経済の未来に投資をするべきです。

そして、それ以上に重要なのは、企業がその支出を配当に回さずに、設備投資を増やし、賃上げを行うために使用されることです。これが最大の鍵となります。

労働分配率を上げていかないと、積極財政は財政悪化に終わり、円安が進んで物価高が加速し、低所得者を苦しめるという最悪の副作用を生み出します。そのためには、高市首相は、企業に対して賃上げの圧力をかけることが急務です。

政府が直接関わる賃金の引き上げを

具体的には、政府が直接関わる賃金を先に上げるべきです。自衛官、学校の先生、警官、公務員、さらに介護職など、政府が公的価格を通じて間接的に雇用している労働者の賃上げを行うことで、民間部門の給料を引き上げる圧力を掛ける必要があるのです。

民間の賃上げが進めば、企業は間違いなくそれを捻出するために設備投資を増やします。人手不足なので、失業者が増える心配もありません。高市政権には、責任ある積極財政の「中身」と、企業への「賃上げ圧力」に期待しています。

デービッド・アトキンソン 小西美術工藝社社長

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David Atkinson

元ゴールドマン・サックスアナリスト。裏千家茶名「宗真」拝受。1965年イギリス生まれ。オックスフォード大学「日本学」専攻。1992年にゴールドマン・サックス入社。日本の不良債権の実態を暴くリポートを発表し注目を浴びる。1998年に同社managing director(取締役)、2006年にpartner(共同出資者)となるが、マネーゲームを達観するに至り、2007年に退社。1999年に裏千家入門、2006年茶名「宗真」を拝受。2009年、創立300年余りの国宝・重要文化財の補修を手がける小西美術工藝社入社、取締役就任。2010年代表取締役会長、2011年同会長兼社長に就任し、日本の伝統文化を守りつつ伝統文化財をめぐる行政や業界の改革への提言を続けている。

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