JR「輸送密度」ブラックボックス化した計算根拠 赤字路線の利用促進へ「詳細データ公表すべき」

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

――輸送密度の定義についてグーグルで検索をしたところAIによる概要として、「輸送密度とは1km当たりの1日平均の輸送量」という説明が表示され、引用元は「日本民営鉄道協会」のホームページとなっていましたが、この説明は正しいですか。

輸送密度は、その区間における1日当たりの輸送人キロを区間距離(キロ)で割ったものですから、単位は「人キロ/日キロ」です。分母にも分子にもキロがありますので、「人/日」と表現されることも多いです。当該区間全体における平均輸送人数を求めたものですので1km当たりという概念ではないです。輸送密度の計算式は、次のようになります。

 輸送密度=年間輸送人キロ÷(営業キロ×年間営業日数)
  ※年間輸送人キロ=年間営業日数×輸送人員×平均乗車距離

営業キロや乗車距離については、100m単位で計算しても10km単位で計算しても同じ値になります。

――輸送密度を正しく把握するためには、輸送人員とそれぞれの乗客の乗車距離の測定が重要になるということですね。

そうです。定義に沿って計測しようとすれば輸送人員と乗車距離を調べる必要があります。ただし、輸送密度を求めることが目的であれば駅間の通過人員を数える方法もあります。どちらの方法も全路線について毎日調べることは簡単ではないですので、以前から正確には計測されていませんでした。

しかしながら、現在ではICカードやIT機器が発達していますので、以前よりも精度を高めることができるはずです。また、この指標は、以前はあまり注目されていませんでしたが、近年では存廃問題の議論のほか、鉄道再構築事業の検討などにおいても大変注目されるようになりました。社会的な重要性が高まっているのですが、近年の技術を取り入れて精度を上げようという試みは行われているとは言えないと思います。

中川大(なかがわ・だい)●1956年京都市生まれ、小学校から高校まで富山県で暮らす。京都大学工学部卒、京都大学大学院工学研究科交通土木工学専攻修了。工学博士。建設省、国土庁、東京工業大学、京都大学を経て2017年4月から富山大学副学長。2022年4月から京都大学名誉教授、富山大学名誉教授、富山大学都市デザイン学系特別研究教授。また、これまでの主な兼職に、富山県地域交通政策監、富山市交通政策監、福井県都市計画審議会会長、全国知事会地方自治先進政策センター専門委員、京都府助言役(参与)、京都市交通局運輸計画アドバイザー、あいの風とやま鉄道社外取締役。(写真:本人提供)

輸送密度の計算式はブラックボックス

――JR西日本は、2025年8月6日に2024年度の各路線の1日当たりの輸送密度を発表しました。このうち、注目を集めている芸備線では、備中神代―東城間18.8kmについては81人、東城―備後落合間18.8kmについては19人と発表されています。特に備中神代駅は無人駅であることから、芸備線の列車が発着するJR伯備線の新見駅で発売された乗車券の金額などを基準に乗車人数を把握するほかはないように感じられます。

そうですね。新見駅からは、伯備線の両方向と、芸備線・姫新線方面に行くことができますので、新見駅で販売された乗車券については、何らかの計算式によって各路線に乗車人数が案分されているものと考えられますが、その計算式や案分比率は公表されていないですね。輸送密度の計算方法については、いわばブラックボックスとなってしまっています。計算式や案分比率が公表されていなければ信頼できる指標として議論に用いることはできません。

次ページはこちら
関連記事
トピックボードAD
鉄道最前線の人気記事