インバウンドが実は「移民への依存度」を下げている オーバーツーリズムを批判する人が知らない、深謀な"政策思想"
参考までに、2023年の実績では、5.9兆円の外貨が12.2兆円の生産波及効果、6.0兆円の付加価値効果、そして118万人の雇用効果をもたらしました。この比率を2025年に当てはめると、生産波及効果は約20兆円、付加価値効果は約10兆円、雇用効果は200万人規模に拡大すると試算されます。
インバウンド消費は「輸出産業」としても重要な位置を占めています。2024年では8.1兆円の規模となり、自動車産業の17.9兆円に次ぐ第2位に躍り出ました。半導体等電子部品の6.1兆円を大きく凌駕する実績です。
円安圧力の緩和と、隠れた「移民代替」効果
この巨額の外貨獲得は、日本が抱える経済構造の課題緩和に貢献しています。例えば、2024年の日本のデジタル赤字は6.6兆円、原油輸入総額は10.7兆円でした。インバウンドによる10兆円の外貨は、これらの輸入コストに対する円安圧力を相当程度緩和し、海外からのコストプッシュ型インフレ圧力の抑制にも大きく貢献していると考えられます。
さらに、インバウンド戦略には、一般に知られていない重要な設計思想があります。それは「移民への依存度を下げる」という目的です。人口減少と高齢化が進む日本では、国内観光客の減少と1人当たりの消費額の低下により、内需の停滞が避けられません。この減少する観光需要に対し、供給側を縮小させるのではなく、日本人観光客の減少分を外国人に来てもらうことで補うという議論が、第二次安倍政権下で進められました。
先進国では、経済成長維持のために移民を受け入れる流れがありますが、これには社会的なコストも伴います。安倍政権は、インバウンドを増やすことによる内需活性化を図る一方で、移民を受け入れるコストよりもインバウンド誘致のコストが相対的に低いと判断し、この戦略を推進してきた経緯があります。
消費効果のみを考えた場合、2025年の10兆円の外貨獲得は、定住者に置き換えると、約526万人の実習生の消費効果に相当します。2030年に政府目標のインバウンド6000万人、15兆円の外貨獲得が実現すれば、これは約625万人の移民の消費効果に相当することになります。
インバウンドは、移民を受け入れることなく内需を活性化する、独自の解として機能しているのです。


















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