姿を消したビットコイン発明者「サトシ・ナカモト」を15年追い続けて浮かび上がった「危険な思想」
私はバックとメールでやり取りしたが、私自身はアミール・ターキ(初期のビットコイン開発者、ハッカー)が言ったことに説得力を感じていた。「アダムは彼のプロジェクト全般にわたって、一定したスタイルを持っている。彼のスタイルはサトシのそれとは一致していない」とアミールは語っている。彼は続けて、バックは標準的なプログラミング規約に従い、C言語を用い、ユニックス/リナックスのプログラマーであるのに対し、ナカモトはスタイルが一定せず、C++でコードを書き、ウィンドウズを使う人物であった、と説明した。
さらにバックは当時、プライバシー絶対主義者として知られており、ビットコインが匿名性を犠牲にする点には難色を示しそうな人物でもあった。ブロックチェーンの要点であり同時に落とし穴でもあるのは、そこで起きるあらゆることを誰もが確認できるという点だからである。また正体を隠そうとしている人物が、論文に載せる引用文献をわずか数件に絞っておきながら、その中に自分の著作を含めるというのは、不自然なほど不用意な行動ではないかと感じられた。
容疑者その2「eキャッシュ起業家 デビッド・チャウム」
当時の最も有力なナカモト候補は、デビッド・チャウムという人物だった。彼は体格がよく、ビルケンシュトックを履くeキャッシュ起業家で、北カリフォルニアでフォルクスワーゲンのバンを運転中に「ひらめき」の瞬間を得たり、また別のときにはジャグジーに浸かりながらアイデアを思いついたりしたという。チャウムは匿名での取引を可能にする暗号プロトコルを考案し、追跡不能なデジタルマネーに関する複数の特許を保有していた。
そしてオランダに拠点を置く彼の企業デジキャッシュを通じて、その構想を現実に最も近い形で実現しようとした人物でもある。さらに彼は、いかにも偽名を使いそうなタイプにも見えた。以前、ワイアード誌の記者が何気なく年齢を尋ねたところ、チャウムは「人には教えないことにしている」と答えたという。私がチャウムにメールを送ったとき、彼は「ちょっと手が離せない」と短く返信してきたきり、その後のメールには応じなかった。


















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