「家事」をする男女ほど"脳が衰えない"。海外から研究結果が続々と報告――『じゃあ、あんたが作ってみろよ』は脳の機能からみても正しいワケ
アメリカの健康と退職に関する研究でも、5000人以上の高齢者を10年間追跡した結果、家事レベルを一貫して高く保っていた人は、低いままだった人と比べて認知機能の低下速度が有意に遅いことが確認されました。このパターンは60代後半から80歳以上まで、男女ともに見られました。
注目すべきは、この研究が「変化のパターン」も分析したことです。途中から家事レベルを高めた人は、ずっと低いままの人よりは良い結果でしたが、最初からずっと高かった人には及びませんでした。これは「早く始めて続けること」の重要性を物語っています。
■シンガポールで測定された家事の量と質
シンガポールの研究では、65歳以上の高齢者493人を対象に、家事の量と種類を詳細に調査し、認知機能、バランス感覚、脚力を直接測定しました。この研究のユニークな点は、「軽い家事(料理、洗濯、アイロンがけなど)」と「重い家事(掃除機がけ、床磨き、窓拭きなど)」を分けて分析したことです。
家事時間が週に6時間以上の人は、2時間未満の人と比べて、記憶テストで平均8%、注意力テストで平均5%高いスコアを記録しました。さらに「重い家事」を多く行う人は下半身の筋力が15%高く、バランステストの成績も良好でした。これらは転倒予防と自立生活の維持に直結する能力です。
研究者たちは、「軽い家事は主に認知的な負荷(計画、順序立て、記憶)を、重い家事は主に身体的な負荷をかけることで、両方が補完的に脳と体の健康を支えている」と結論づけました。
家事が脳を守る「3つの機序」
では、なぜ家事が認知症予防になるのでしょうか。
まず、身体的な効果が挙げられます。
掃除機をかける、洗いものをする、買い物の荷物を運ぶ、テーブルを拭く、ゴミを出す……といった動作は中程度の強さの身体活動であり、心拍数を上げ、主要な筋肉群を使い、座りっぱなしの時間を減らします。
世界最高峰の医学誌『ランセット』の認知症予防報告書によれば、身体的な活動の低さ、高血圧、糖尿病、肥満、喫煙、過度の飲酒、大気汚染、頭部外傷、教育レベルの低さ、社会的孤立、難聴、うつ病、高LDLコレステロールと視力障害という14の修正可能なリスク因子に対処すれば、世界の認知症症例の約40%を予防できる、または遅らせる可能性があるとされています。
家事は、このうち少なくとも3つ(身体的な活動の低さ、社会的孤立、うつ病)に直接的に作用する可能性があります。
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