東京だけが"正解"じゃない──伝説の写真集『TOKYO STYLE』の都築響一氏が見る「令和の都市生活」。昔と今の共通点、そして変化とは?

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30年前、東京は暮らしの実験場だった。しかし2025年の今、その役割は東京に限らない。『TOKYO STYLE』が生まれた当時とは違い、新しい試みは日本各地で生まれている。

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いま東京では、もともと庶民的だった街に資本が流れ込み再開発され地価や家賃が上がることで、従来そこに住んでいた人々が押し出される現象が起こっている。

そのような“ジェントリフィケーション”という現象が、東京では顕著なのだ。下北沢や中目黒のように、かつて若者が文化を作っていた地域も例外ではなく、今では地価が上がって、なかなか気軽に暮らせない街になってしまった。

文化的な多様性が失われることがジェントリフィケーションのデメリットのひとつ。そう考えると今の東京では、雑多な暮らしのエネルギーが詰まった『TOKYO STYLE』という写真集は成立しない、という都築さんの言葉も理解できる。

それでも東京に住んでいるから

とはいえ実際は東京への転入率は依然として高い。総務省の統計によれば、2024年も東京は全国からの転入超過が続き、若い世代を中心に人が集まり続けている。

日本は大企業の本社が東京にあることが多く、世界のなかでも一都市集中の傾向があることが、東京への流入が減らない理由のひとつでもある。

しかしそこに暮らす人たちがみな東京に憧れて、そこに暮らすことを熱望しているかというと、また別の話だ。

私が「だから、ひとり暮らし」で取材してきた人々も、ほとんどが東京近郊に住んでいて、やはり東京での家賃の高さを挙げる声は少なくなかった。けれど、そのなかでそれぞれが“実験”を重ねて自分らしい暮らしを編んでいた。

実は都築さん自身も、東京に住みながら暮らしの実験を続けている。

「僕はいま東京に住んでますけど、神戸と札幌にも小さな拠点を持っているんです。札幌なら3万円くらいで小さな部屋を借りられるし、神戸でも5万円ぐらいで十分暮らせる物件がある。そんなの、冒険しなきゃ損だと思うんですよ。

家をひとつ買って一生そこに縛られるんじゃなくて、安い場所をいくつか借りて行き来する。今はネットがあるから、どこにいても仕事も付き合いも続けられる。昔は無理だったことが、いまは可能になってきています」

リモートワークを実行できるかどうかはその人の職業にもよるが、確かに家賃が3万円ならば複数の拠点を持つことも現実味を帯びてくる。実際私が取材したなかにも、自宅とは別に地方に拠点を持つことにした人がいた。

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