イスラエルのガザ地区攻撃、ロシアのウクライナ侵攻「ジェノサイドを伴う現代の紛争」の自己正当化を図る犠牲者意識ナショナリズム

イスラエルのガザ地区攻撃は祖先の犠牲を強調して自己正当化を図る「犠牲者意識ナショナリズム」の典型例だ(写真:© 2024 Bloomberg Finance LP )
国連人権理事会の調査委員会が、パレスチナ・ガザ地区でのイスラエル軍の軍事行動をジェノサイド条約に基づいてジェノサイドと認定した。ユダヤ人が大量虐殺されたホロコーストを繰り返すまいと制定された条約でユダヤ人国家が指弾されるという皮肉な状況は、祖先の犠牲を強調して自己正当化を図る「犠牲者意識ナショナリズム」の典型例だ。韓国の歴史家、林志弦教授の著書『犠牲者意識ナショナリズム』はこうした状況もあいまって2021年の刊行後、日米両国で翻訳出版され、大きな話題を呼んだ。林志弦教授が最近、アメリカ版の版元であるコロンビア大学出版会のサイトに寄せたコラムを翻訳して紹介する。
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ジェノサイドを伴う現代の紛争の根底にあるものは何か。たとえばガザやウクライナでの戦争のような——。
私は、グローバル・ヒストリーの研究者であり記憶研究を続けてきた学徒としての答えを拙著『犠牲者意識ナショナリズム』で提示した。こうした悲劇的な衝突の前段には「記憶の戦争」がある。
それは、解消されていないトラウマと失敗した和解によってもたらされる衝突である。歴史的な和解を成し遂げようとする記憶外交は、草の根レベルに根付いた強固なナショナリスティックな記憶に妨げられて失敗を重ねてきた。
犠牲者意識ナショナリズムを犠牲にすることで、連帯の記憶と歴史和解へ向けた地球規模の「記憶体制」の構築に拙著が寄与することを願っている。記憶体制とは、長期的かつ持続的に社会を規律する構造化された力としての集合的記憶とそれが作動するメカニズムのことである。
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