転機は「鶏と水」だけのスープを試作したことにある。魚介や野菜を加えた複合的なダシが主流だった中、彼は鶏と水だけで挑んだ。ある時、比内地鶏を使ったスープに生醤油を合わせた瞬間、雑味のないクリアなうま味が際立ち、まさに「これだ」と直感したという。
それから、科学的アプローチで温度や抽出時間を突き詰め、鶏のうま味や余韻を最大限に引き出すスープを完成させた。それがやがて「水鶏系」と呼ばれる新しいラーメン潮流の原点となった。
そして次に生まれたのが「昆布水つけ麺」である。昆布水に浸した麺をそのまま啜れば、グルタミン酸のうま味が広がる。そこに鶏の出汁を合わせると、イノシン酸と掛け合わさり、口中でうま味が爆発的に増幅する。「最初は実験だった」と嶋﨑さんは振り返る。カツオやホタテなどを加えてみたが、結局は「昆布だけ」が最も力を発揮することを突き止めた。この一杯も多くのラーメン職人を刺激し、昆布水つけ麺は全国に広がっていった。
「元祖は嶋﨑順一」と言われながらブームに

2014年、嶋﨑さんは拠点を関西・尼崎に移して「ロックンビリーS1」をオープン。首都圏から離れ、ここから自分のラーメンをさらに磨き続けたのである。11年間、彼はほぼ一人で店を切り盛りし、徹底した研究生活を送った。
嶋﨑さんが尼崎で孤独に鍛錬を重ねている間、東京では「水鶏系」や「昆布水つけ麺」が爆発的に広まっていった。ラーメンファンの間では「元祖は嶋﨑順一」と語られる一方で、多くの店が独自解釈を加え、ジャンルとしての幅を広げていった。

その状況をどう見ていたのかと尋ねると、嶋﨑さんは意外にも淡々とした答えを返された。
「特に何も思わなかった。誰かが真似しても、食べ比べれば違いはわかる。自分は毎日、自分のラーメンの欠点を見つけて修正することしか考えていない」(嶋﨑さん)
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