《ミドルのための実践的戦略思考》クレイトン・クリステンセンの『イノベーションのジレンマ-技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』で読み解く 法人向け英会話スクールの営業担当・安田の悩み

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では、顧客の「過剰満足」はどうやって見極めればいいのでしょうか? 同書にて、クリステンセンはいくつかのヒントを提示しています。それをまとめてみましょう。

まずは、顧客との直接的なやり取りを通じて、「性能向上に対して顧客が対価を払うかどうかの意思を確認すること」。つまり、過剰満足とは、「良いサービスだが、価格を払ってまで買うつもりはない」という状況に他なりません。そう考えるならば、安田さんがまずすべきだったことは、「そのニーズを満たすことができたら、追加でいくら払うつもりなのか」ということを、エレクトロニクス社とのやり取りを通じて確実に知ることだったと言えます。

しかし、これは言うのは簡単ですが、実際に現場で価格の話を出すのは気が引けるものです。「価格に関係なく、求められるものを作りこんでいく」という職人気質に走る気持ちも分からなくはありません。実際に安田さんも先方から新たな提案の種を出された時、価格のことは確認せずに話を進めています。しかし、このスタンスは「過剰満足」につながりやすいことを認識しておくべきです。

クリステンセンはまた、「利益率やシェアにも着目すべき」と言っています。一般に、利益率や価格が下落し続ける状況は、どのような企業にとっても好ましくないことは分かるのですが、同書では、さらに「売上が横ばいか下落傾向にあり、利益率が上昇傾向にある場合」も注意すべきと述べています。

つまり、利益率の上昇は、単に付加価値の向上だけでなく、低利益率のレンジの顧客が他社に流れることで、利益率の平均が増加しているケースがあるということです。

また、市場シェアの変化を分析したとき、「重要だと思われる特性において明らかに劣っている競合がシェアを奪っている状況」が見られるときは、過剰品質がもたらした過剰満足の可能性があります。たとえば、今回のケースでいえば、「サービスレベルで明らかに劣っていると思われる競合がシェアを伸ばしている状況」は、まさに過剰満足のサインであるということです。

もう一つ、忘れてはならないことは、「顧客の困っていることは何か」「その解決の際の評価軸は何か」に着目することです。

つまり、顧客が実際に何に困っているのか、その本質をまずはちゃんと定義し、同時に、それに対する解決策に関して、何を重視して評価すべきかを明確化する努力を惜しまないということです。

たとえば、今回、安田さんはエレクトロニクス社からの要求に対して、おそらくは彼らの困っている点に対する深掘りをすることなく、自社のサービスの視点から考え始めたと思われます。つまり、本質的に何に困っているのか、解決すべき課題は何なのか、ということの議論を十分にし尽くす前に、「うちのサービスラインでは何が売れそうなのか。そのサービスはどれくらいの工数でできるのか」という方向に考えが向いてしまったということです。こうした時に、過剰満足の種が蒔かれます。

■ミドルとしてのさらなるチャレンジ

もし過剰満足だと分かった場合においても、ミドルにはさらなるチャレンジが待ち受けます。

それは、最終的に過剰満足が生じていることを認め、『イノベーションのジレンマ』に書かれたソリューションである組織変更や顧客ターゲットの変更などの意思決定をするのは、多くの場合はトップであるということです。したがって、トップと問題意識を共有しなくてはなりません。しかし、そこには大きな壁が立ちふさがります。

「お前らが頑張っていないだけじゃないのか?」「ちゃんと然るべきタイミングで先方のキーマンを巻き込んできたのか?」「あのリードクライアントからの要望に応えないのか?」などと言われた場合、多くのミドルリーダーは答えに窮するでしょう。

『イノベーションのジレンマ』は、企業の経営者に向けて書かれた書籍であり、これ対する直接的な答えは書いてありません。しかし、中身を咀嚼すれば、その解はうっすらと見えてきます。

そのキーワードは、「現場」ということです。この書籍において、クリステンセンは「過度に机上で考えるべきではない。市場機会を本当に理解したいのであれば、オフィスから出て顧客との対話を行うべきだ。そこでは驚くべきことを学べるだろう。」と書いています。つまり、ミドルの立場で言い換えるならば、「トップを顧客接点の現場にどれだけ連れていっているか」ということです。

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