福島原発事故・井戸川裁判傍聴記・判決編(前編) 「現代の田中正造」の主張を"黙殺"した非情な判決
国は表向き、事故前と変わらず「安全安心」をアピールし、立地自治体や住民に原発再稼働をのませている。「大事な情報を自治体に伝える義務はない」「合同対策協議会なんて形だけでいい」と言わんばかりの国の反論を知ったら、自治体や住民は愕然とするだろう。国にすれば、誤りを認めるわけにはいかないが、大っぴらに開き直れば立地自治体の反発を招きかねない。だから表と裏で「二枚舌」を使い分けるしかない。
裁判官にしても、国のウソや隠蔽が事故の原因だと認めれば、ひいては国の法的責任も認めざるをえなくなる。「国の法的責任はなし」とした最高裁判決に従う前提に立つならば、井戸川の主張を〝黙殺〟する以外に手がない。
国と裁判官の利害は完全に一致している。この判決は「臭いものに蓋」の集団無責任から生まれたものだ。
閉廷から約30分後、井戸川は判決文を受け取るため、地裁12階にある民事第50部を訪れた。渡された判決文は約190ページで、10年に及んだ長期裁判にしては短い。阿部裁判長が法廷で朗読した判決要旨も渡すよう井戸川が求めると、応対した事務官から思わぬ言葉が返ってきた。
「判決要旨はお渡しすることもありますが、今回は裁判長の判断で、うまく要旨ができていないということで、ほかに出すのはよろしくないということで、お渡ししないことになりました」
わざわざ法廷で40分かけて朗読した判決要旨が「うまくできていない」はずはない。判決要旨をインターネット上で公表され、無責任と批判されるのを恐れたのだろう。阿部裁判長が判決要旨を朗読した理由は、法廷に集まった支援者に訴訟を無意味と印象付け、井戸川に〝泣き寝入り〟を求める以外に考えられない。=敬称略=
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら