福島原発事故・井戸川裁判傍聴記・判決編(前編) 「現代の田中正造」の主張を"黙殺"した非情な判決

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

地裁1階の大法廷に入ると、これまでの口頭弁論ではなかった「記者席」が設けられており、傍聴席の最後列には三脚に載ったテレビカメラが置かれていた。新聞やテレビも判決を報じる予定なのだろう。だが、それは判決に大きな意義があると考えているからではない。過去の記事やニュースを検索して10年前の提訴が報じられているのを見て、「判決も(一応)報じておこう」という義務感からだろう。

少し前、判決後の報道対応を巡って「支える会」と井戸川の間でひと悶着があった。記者会見を開くよう求められたが、井戸川はこれを拒絶したのである。判決の数日前、埼玉県加須市の事務所で井戸川はこんな愚痴をこぼしていた。

「集まってくれることには感謝しているんだよ。でも、みんなギャラリーの方を向いてしゃべりたいだけなんだよ。自分で事実を調べようともしない」

井戸川にとって自らの裁判闘争の意義は勝ち負けではない。原発行政の欺瞞や無法を広く伝え、歴史に残すことにある。しかし報道ばかりか支援者までが大衆の目ばかりを気にして、井戸川の闘いには関心を持っていない──。判決を前に井戸川はすでに厳しい現実に直面していた。

裁判長が法廷で判決要旨を朗読

損害賠償訴訟の判決とは実にあっけないものだ。大抵は裁判長が「被告は金●●●円を原告に支払え」あるいは「原告の請求を棄却する」と、主文を読み上げて終わる。時間にして5分もかからない。

井戸川裁判の場合も同様で、開廷するとすぐに阿部雅彦裁判長は「一、被告東京電力ホールディングス株式会社は原告に対し、1億17万6987円及びこれに対する平成23年3月11日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え」「被告国に対する請求をいずれも棄却する」と主文を読み上げた。

「1億」という金額を聞いて、傍聴席から「よし!」と声も上がったが、これは早合点だ。双葉町内に井戸川が所有する双葉町内の土地賠償が含まれているに過ぎない(実際、判決の認容額約1億円のうち慰謝料は約1600万円で、これは国が定めた賠償指針通りの金額だった)。

主文から分かったのは、最高裁判決に沿って国の法的責任を認めなかったことだけだった。あとは判決文を読まなければ何も評価できない。ところが驚いたことに、私が席を立ちかけた時、阿部裁判長が「理由の要点についてご説明をする準備をしてきております。お聞きいただけますか。30分ほどかかります」と続けた。

次ページ東京地裁判決のポイントとは?
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事