富士急行、熱海―初島航路の「新高速船」誕生秘話 「人気夜行列車の生みの親」が従来の船を大改装
船内の一部や外観にレモン色が使われているのは、「日本のレモン発祥の地は熱海である」という説に基づく。初島全体でレモンを活用したフードメニューの考案やフォトスポットの設置を行っており、富士急も一役買っている。

川西氏にデザインで難しかった点を尋ねると、「旅客定員と座席数のバランス」とのことだった。イルドバカンス3世号は定員は870人で、着席できる人数は200程度。ただ、着席人数はいす席だけでなく、カーペットの上にお尻をついて座る人の数が含まれる。
金波銀波では、カーペット敷きだったフロアにいす席を設けたので、床に座る場合と比べると、座れる人数が減る。しかも、売店を作ったり、バリアフリースペースを広げたこともあり、全体の面積は若干狭くなった。
繁忙期には500〜600人もの客が乗るが、あまり減らすと乗り切れない客が出かねない。結局、客の積み残しがないぎりぎりの人数として、リニューアル後の旅客定員は626人、座れる人数は166とした。
経営戦略にも「デザイン」は生きるか
歩き回るのが楽しくなる遊び心満載の船内のデザインは、このようにすべてが必然性を伴うものだった。さまざまな課題がデザインの力で解決された。

冒頭で触れた、「さまざまな要求を串刺しにして1つの形にまとめるのがデザイナーの役割」というのは、企業経営にも通じる。販路を広げたい、新規事業を育成したいといったさまざまな課題と向き合い解決策を“デザイン”する「デザイン経営」と呼ばれる経営手法もあるくらいだ。
富士急は事業展開する初島、十国峠、箱根、富士山を点ではなく面として発信することで滞在時間を延ばし、宿泊客の増加や地域経済への波及効果を高めたいと考えている。初島だけなら東京から日帰りで終わってしまうが、箱根や富士山と組み合わせればスケールの大きなビジネスになりそうだ。そのための戦略にもデザインの出番があるに違いない。

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