富士急行、熱海―初島航路の「新高速船」誕生秘話 「人気夜行列車の生みの親」が従来の船を大改装
こうして生まれた川西氏のデザインにはつねに斬新だ。川西氏は観光型高速クルーズ船「シースピカ」、内航電気推進タンカー船「あさひ」など船舶のデザインも行っている。特にシースピカは2023年5月に広島県で開催されたG7サミットで、各国の首脳を乗せて瀬戸内海を運航し大きな話題となった。
7月12日土曜日、“川西デザイン”の新たな船がデビューした。富士急行のグループ会社富士急マリンリゾートが運航する熱海―初島間の定期旅客航路「初島リゾートライン」に高速船「金波銀波」が就航したのだ。船内はファミリー向けの半個室や富士山型の背もたれを備えたボックスシートをはじめ多くの工夫が凝らされている。思わず船内を歩き回りたくなるような遊び心満載のデザインだ。これらのデザインも事業主や利用者からの聞き取りを踏まえて作られた。

川西氏や富士急関係者への取材を基に、金波銀波が生まれるまでの舞台裏に迫った。
「初島」はどんなところ?
まず知っておきたいのは初島についてだ。熱海市の沖合約10kmに位置し、熱海港から船で30分。首都圏からいちばん近い離島として知られている。島の海岸線の総延長は4km程度という小さな島で、灯台の上からは360度見渡す限り海という眺望が楽しめる。
島内には約7000年前の縄文時代の遺跡が点在しており、古くから人が住んでいたことがうかがえる。江戸時代末期には41世帯が住んでいたという記録がある。2025年6月時点で166世帯、223人が居住している。
もともとの初島の主要産業は農業や漁業だったが、東海道新幹線が開業した1964年に富士急がレジャー施設「初島バケーションランド(現・アジアンガーデンR-Asia)」を開業、初島航路もこの年に開設された。島内の開発が進むにつれ、主要産業も第1次産業から民宿や食堂、観光などの第3次産業にシフトした。
1994年には高級会員制リゾートホテル「初島クラブ」が開業したが、バブル崩壊の余波で1999年に運営会社が経営破綻、2000年以降は会員制リゾート大手のリゾートトラストが経営を引き継ぎ、「グランドエクシブ初島クラブ」として運営している。
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