ある寄生虫が成熟して有性生殖を行う宿主を「終宿主」、その寄生虫が未成熟な発育段階(幼虫期など)を過ごす宿主を「中間宿主」といいます。トキソプラズマの場合、ネコ科の動物が終宿主で、それ以外が中間宿主にあたります。
トキソプラズマは人間にも感染します。
人間に感染する主な経路は、ネコの糞便に含まれる感染能力を持ったトキソプラズマ(この状態を「成熟オーシスト」といいます)が、土いじりなどを通じて口に入る経口感染です。また、トキソプラズマは中間宿主の間でも感染するため、感染した獣や鳥の肉を十分に加熱せず食べた人間に感染したケースも報告されています。
幸いなことに、人間が感染しても多くの場合は無症状で、大きな害はありません。ただ、免疫機能が著しく低下している人では、感染が脳に及んで重い症状を引き起こすことがあります。
また、妊婦さんが初めてトキソプラズマに感染した場合、胎盤を通して胎児にも感染して「先天性トキソプラズマ症」を発症する可能性があります。流産や水頭症、肝脾腫などを引き起こす危険性がありますから、過度に恐れる必要はありませんが、注意しておくにこしたことはありません。
基本的には、ネコの糞便を素手で触らない、ネコが排泄していそうな土には触れない(庭いじりや畑仕事は控える)、加熱が不十分な肉は食べない(食肉中のトキソプラズマは、中心温度が67℃になるまでの加熱で不活化できます) といったことが予防策となります。
ネコを飼っている人は気になるかもしれませんが、ネコの糞便にオーシストが潜んでいるといっても、それはネコが初めてトキソプラズマに感染した後、数日から2週間ほどの限られた期間のみです。
また、排出されたオーシストが成熟して感染能力を獲得するまでには24時間程度の時間がかかるとされていますから、糞便の処理は24時間以内で行うようにすれば、万が一そのネコが直近にトキソプラズマに感染していたとしても、感染力のあるオーシストとの接触を回避できます。
サルには怖い寄生虫
さて、人間への害は少ないトキソプラズマですが、キツネザルやリスザルなどの一部の小型のサルの仲間では、深刻な健康被害を引き起こすことがあります。
これらのサルはトキソプラズマに対する免疫が非常に弱く、感染すると症状が急激に進行します。飼育員が異変に気づいたときにはすでに手遅れで、治療をする間もなく死亡する、ということがしばしば起こるのです。
病理診断の結果、今回の21歳のワオキツネザルは、高齢で体力や免疫機能が落ちていたところにトキソプラズマに感染し、死亡に至ったのだと考えられました。