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習近平失脚説を「七段構え」の方法で読み解く、派閥や権力闘争以外の分析から見えてくる中国政治の今

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2つの意見の違いは、いわゆる台湾有事のリスク評価にも関係している。「習近平権力低下」説では、軍政と軍令の混乱による軍事力行使の困難が予測される。一方、「習近平の権力維持」説では、大規模・高強度・高頻度の軍事訓練の実施にみられる通り、有事の発生リスクに変化はなく、訓練を通じた侵攻能力と軍人たちの実戦への自信が着実に高まっていく。

派閥や権力闘争を通した分析を保留する理由

習近平の権力動向と台湾有事のリスク評価について、2つの見方のいずれが正しいのか。むろん、習近平本人を含む権力中枢にいるごく少数の者を除いて、世界中のほとんど誰も確証ある回答を提供できはしない。実際、ネット上では、明快だが根拠不明な主張が氾濫している。

そこで筆者は、研究者として、政軍関係を含む習近平時代のエリート政治分析の方法を検討することで、上記の問いへの間接的な答えを導きたいと思う。とくに、指導部の権力動態をめぐるブラックボックス状況の解読に際し、「人」の要素(human factor)をいかに位置づけ活用するかという点について試論を述べる。

はじめに筆者の立場を明らかにしておこう。習近平時代のエリート政治分析において、指導者同士の人間関係や派閥の権力闘争を、分析の第一義的要素・前提条件とするやり方を、筆者はひとまず保留する。こうした「ヒト第一主義」の分析は、真偽検証の困難と予測可能性の低さ、事象が事後的にしか確認されないことに由来する政治的展望と政策形成への示唆の少なさ、など種々の問題点が指摘できる。

指導者同士の人間関係や個人的感情に関する数少ない、かつ、確度の低い伝聞情報に基づいて、蓋然性の低そうなシナリオを語るよりも、中国政治の全体状況に関してすでに知られている多くの「手札」を用いて、点数は低いかもしれないがより堅実な「役」――内幕話としては面白みに欠けるが、より確実性の高い、しかも各種のリスクに対応可能な説明を考えるほうが、政治の洞察と政策の実践に対して有意義と考える。

もっとも重要なことは、予測が外れた場合でも、分析の要素と考察の手順について一定の型が示されていれば、単発予想のアタリ・ハズレにとどまらず、経験の蓄積とモデルの修正を通じて今後の予測可能性を高めることができる。

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