消える"日本一のマンモス女子大"!「武庫川女子大」の共学化が映し出す歴史の因果
関西では、良家や経営者の子息・子女同士が結婚するケースが少なくない。主要ファミリービジネスの閨閥図を見れば一目瞭然である。そのような家庭の父兄は、ご学友も「ええしの子」であることが望ましいと考えた。
「ええし」とは、上品で丁寧な大阪の船場言葉の「良え衆(ええしゅう)」に由来し、「ええしの子」とは、良家の子息・子女を意味する。阪神間に設立された私立学校には、当初、特権階級的な超富裕層の「ええしの子」が通学する傾向が強かったが、高度経済成長期以降は「裕福で恵まれた環境で育った子供」を意味する「ええとこの子」のほうが一般的に使われるようになった。
それに呼応するかのごとく、セレブな雰囲気に憧れた比較的裕福な上位中産階級(アッパーミドル)の子弟までが入学するようになる。とくに女学校が多かった阪神間においては、女子に「ええとこの子」志向がより強く表れた。
お嬢様学校(中学・高校)は相次いで、上に「お嬢様大学(短大)」をつくった。この学生の多くは、有名企業の一般職として就職し、エリートサラリーマンとの結婚や、名家の「ええとこの子(子息)」と結ばれるという、いわゆる「永久就職」というライフプランを描いていたようだ。
大きく変容する女子大の役割
しかし、女性が社会で活躍することが当たり前になった今では、女子大の役割は大きく変化した。女子学生のニーズは多様化し、共学の大学生と変わらない就職ニーズが生まれ、キャリア形成を重視する傾向が強まっている。首都圏や名古屋と同様、阪神間の女子大もこの変化に遅まきながら対応し、社会科学系、国際系、理科系の新設・拡充など、学部・学科改革を進めている。
武庫川女子大の学生数は、すでに共学化している大学院も含めて、近隣の甲南大学を1000人上回る約1万人に到達。すでに総合大学志向を強めていた。武庫川女子大の共学化が周辺中堅私大に大きな影響を及ぼすことは避けられないだろう。
一方、相次いで女子大が共学化を表明する中で、伝統校は「数少ない女子大」として差別化を明確にし、復権できる可能性がないわけではない。今でも女子大生を優遇して採用している企業も現存する。女子大の女子学生に対するイメージも悪くなく、同じレベルの大学なら共学よりも女子大のほうが就職に有利な場合もある。
武庫川女子大が共学化を発表した直後、オンライン署名サイトで「武庫川女子大学の共学化の決定:反対と一時停止を求めます」と題した署名運動が立ち上がり、すぐに約1700人が賛同し、7月6日時点で5万人以上の署名が集まった。これは、女子大だから入学したという層が一定数いることを示している。
阪神間には、関西学院大学といった大規模(学生数約2万6000人)なキリスト教系総合大学に加え、神戸女学院大学、甲南女子大学、武庫川女子大、神戸女子大学、親和女子大学(共学化)、神戸海星女子学院大学(募集停止)、神戸松蔭女子学院大学(共学化)、園田学園女子大学(共学化)など、8つの女子大とそれ以上の数の女子短期大がひしめき合っていた。まさに「女子大の集積地」であった。
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