文部科学省「学校基本調査」で見る短大数の変化
今年4月、京都ノートルダム女子大学の学生募集停止のニュースが流れました。京都の4年制大学として初の閉校だと報道されています。同じ学園の小学校と中学・高校が残るとはいえ、大学は学校法人としてのフラッグシップですので卒業生を含め、関係者にとってはつらいニュースだったと思います。
東京でも昨年から恵泉女学園大学が学生募集を停止しており、来年から学習院女子大学が学習院大学と統合される予定ですので、伝統校であっても女子大が厳しい環境にあることに変わりはないようです。
さらに6月には、兵庫県の武庫川女子大学が共学化する方針であることが発表されました。女子大の共学化は以前から行われていることなので、さして珍しいことではありませんが、武庫川女子大学は女子大としては規模の大きな大学でもあるため、女子大関係者には大きな驚きをもって受け止められました。
ただ、女子大関係者以外の一般の方々にとっては関心がそれほど高いものではないようです。女子大関係者以外からの関心が薄いことが、実は女子大の危機の本質なのかもしれません。
さて、同じように存続の危機にあるのが短期大学(以下、短大)です。短大がどれくらい減っているのか、文部科学省「学校基本調査」によれば1990年に41校あった国立短大は現在0校です。すべてなくなってしまったのです。公立短大も1997年に62校ありましたが現在は15校です。私立短大も含めた短大全体で見ると1997年から半減に近い減少です。

今や短大が学生募集を停止して廃校となってもそれほど大きなニュースにはならず、日常の光景と言っては言いすぎですが、それぐらい社会の関心が薄い問題と言えます。女子大もいずれ同じような状況になってしまうのでしょうか。
それにしても、どうして女子大の学生募集が苦しいのでしょう。女子大ということだけで、女子生徒の進路選択の対象から外れてしまうとは思えませんが、そこには女子大特有の学部構成があると考えられます。
大学に進学する女子の学部系統志向の変化
大学に進学する女子数は、実は増えています。文部科学省「学校基本調査」をもとに男女別に関係学科別の大学入学状況をまとめた以下の表を見ると2014年から2024年までの10年間で、18歳人口は12万人減少しています。
しかし、大学入学者の女子数を見ると約2万人増加しています。伸び率は108%です。「少子化」、「18歳人口減少」などと言われながらも、女子の大学進学者数は増加しているのです。ただし、増加している学部系統は、女子大が従来得意としてきた分野の人文系、教育系、生活科学系ではありません。

学部系統別の大学入学者数の比較を見ると、「人文科学」への女子入学者数は、10年間で約3800人のマイナスで7%の減少となっています。同様に「教育」も約1600人のマイナスで6%の減少です。さらに厳しいのが「家政」です。約3000人のマイナス、20%近く減少しています。伝統的な女子大のかつての学部構成は、「文学部、生活科学部(家政学部)」ですので、学生募集が厳しいのは致し方ないことなのかもしれません。
では、大学進学で増えた女子はどの学部系統に入学しているのでしょうか。表を見ると「社会科学」と「保健」の増加が顕著です。「社会科学」では「商学・経済学」が増えています。「保健」は「看護学」の増加が目立ちます。ただ、表には出ていませんが「保健」で「看護学」と同じぐらい増加しているのが「保健その他」の分類ですが主にリハビリテーション分野の学科や専攻と思われます。
なお「工学」も4000人以上の増加ですが、増加数以上に「工学」は伸び率が目を引きます。男子に比べると実人数の規模は小さいですが、伸び率はこの10年で130%以上となっており、ほかの学部系統よりも伸びていることがわかります。つまり、女子大の不人気とは学部系統の不人気がその背景にあると言えます。
女子大の学部構成も大きく変化している
既存の学部が不人気であれば、多くの方は人気のある学部を作ればよいと考えると思います。その通りなのですが、新しい学部を開設するのは結構大変です。
「文学部、家政学部」しか設置していない大学が「経済学部」を開設しようとすれば、まず先生が必要です。文部科学省が定めた大学設置基準で学問分野によって必要な先生の最低限の人数が決められています。この人件費に加えて、教室あるいは校舎を増やさなければなりませんので、設備投資も必要になります。現在のキャンパス内に新校舎を建てるスペースがなければ土地も必要になります。
こうして考えていくと、新しい学部を設置するのは大変な投資であることがわかります。しかも、投資した資金が回収できるのかどうかは、学生募集をしてみなければわかりません。このように現金預金など、ある程度の資産が手元にない大学は新学部の設置も難しいのです。
しかし、2000年代に入る頃から、一部の女子大は果敢に新しい学部を設置するなど大学改革を進めてきました。下記の例を見ると、首都圏女子大の例などは伝統的なパターンと比べると女子大とは思えないような学部構成です。近畿圏女子大の例も女子大とは思えないバリエーションと学部数です。

このように女子の大学進学者が増えている学部系統の新学部を設置して積極的な経営展開をしている女子大もあるのです。なお、前者は昭和女子大学(東京都世田谷区)、後者は武庫川女子大学(兵庫県西宮市)です。武庫川女子大学の場合はそのうえでさらに共学化という選択に至ったということです。
限られる経営の選択肢、求められる決断
これから女子大が取れる施策として、まずは学部学科の構成を今の受験生の志向に合わせることが必須になります。それが大きな投資であることは前述の通りです。
学部学科の再編の先には共学化も視野に入りますし、学部学科の再編と共学化がセットの場合も多く見られます。ただし、共学化も施設設備の改修などハード面での投資も必要になりますので、そのための資産があることが前提になります。
女子大は小規模な大学が多く、十分な資産を持っていない場合もあります。その場合は従来の学部構成のままで存続させるしかありません。実際のところ「人文科学」や「家政」のニーズがまったくないという訳ではありません。今の女子大の入学定員を満たすほどのニーズがないというのが現実ですので、入学定員を現状に合わせて削減する必要があります。
ただし、入学定員の削減は授業料収入の減収になりますので、それに伴いコストカットが必須となります。このコストカットも、誤って授業の質や学生の福利厚生に直結するものを対象としてしまうと、かえって評判を落とし、閉校を早めることになりかねませんので気を付けたいところです。
このほか、従来の学部学科のままでも、カリキュラムを刷新して特色を出し、学科名称を変更する方法もあります。ただ、画期的な教育課程になったとしても、教育内容は最も受験生に伝わりにくい情報の1つですので、評価を得るまでに時間がかかります。それまで大学経営が維持できるかどうか、やはりここでも資産がポイントになってきます。そのため、現有資産の有効活用など授業料以外の収入を増やす施策も考えたいところです。
その観点で、東京科学大学が田町キャンパスの再開発によって、地代収入を得る計画などを見るとうらやましい限りです。余談ですが、以前、都内の大学で留学生から自家用車で通学できるよう、駐車場用に大学の土地の一部を売ってほしいと言われたという話を聞いたことがあります。とあるアジアの国の大富豪のご令嬢だったそうですが、今となってはそれも施策の1つとして考えてもよかったのかもしれません。
ところで、ここでは女子大の話をしていますが、これらは総じて女子大以外の大学にも共通した課題でもあるように思います。いずれにしても、今後の女子大にとって選択肢は限られています。現在の執行部が決断をできるかどうかがカギになります。
(注記のない写真:msv / PIXTA)