日本発イノベーションであるドコモの“絵文字”が終了し、世界規格の“Emoji”だけが残る理由
ここで注目すべきは、国際標準化においてドコモが「提案者」ではなく「素材提供者」にとどまったことだ。自社が生み出したイノベーションの標準化プロセスを、結果的に海外企業に委ねることになった。
取り残されたドコモ、先を読んだ競合他社
ドコモは国際標準化後も独自の道を選んだ。Unicode絵文字を受信できるようにしつつ、表示の際は従来のドコモ絵文字デザインに変換するという独特の仕様を採用したのだ。しかし、スマートフォン時代に入ると、この判断が思わぬ問題を引き起こすことになる。
ドコモのAndroid端末を使っていた人なら、あの違和感を覚えているはずだ。メッセージアプリで絵文字を選ぶ時、なぜか古めかしいピクセル風の絵文字と、カラフルで現代的な絵文字が混在していた。技術的にはどちらもUnicode標準絵文字でありながら、「ドコモ絵文字由来のUnicode絵文字」と「Unicodeで新規追加された絵文字」という、まったく異なるデザイン体系が同居する奇妙な状況が生まれていたのだ。

さらに深刻だったのは、ダークモードでの視認性の問題だった。有機ELディスプレイの普及とともに主流となったダークモードで、ガラケー時代から引き継いだドコモ絵文字は著しく見づらくなった。特に青色の絵文字は背景に溶け込んでしまうことがあった。

ユーザーからは「なぜ絵文字のデザインがバラバラなのか」「選択できるようにしてほしい」といった声もあった。今回の取材でドコモ広報部も「ドコモ絵文字との混在によるお客さまの操作性の不便さ」を認めており、これらの声が終了決定の大きな要因となったことは間違いない。
この混在問題には、Unicode絵文字の急速な拡大も影響していた。2010年に722個だった絵文字は現在3790種類まで増加。新しい絵文字が増えるほど、ドコモの古いピクセル風デザインと、カラフルな新規絵文字とのギャップが目立つようになった。
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